NHK朝ドラ『おしん』のネタバレ・あらすじについてまとめています。
橋田壽賀子原作、小林綾子、田中裕子、乙羽信子による女一代記『おしん』を佐賀編から太平洋戦争編、再起編、完結編まで。
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目次
『おしん』ネタバレとあらすじ~試練(佐賀)編試練編(第87回~第136回)~
2019年8月放送分(106話~132話)
114話
大正12(1923)年9月1日、竜三の執念のような努力が実って、新工場の完成を祝う祝賀会が行われていた。
昼過ぎ、おしんは、地震で階段から転げ落ち、気を失ってしまった。
これがのちに関東大震災と呼ばれる、大地震だった。
竜三とおしんは田倉商会にかけつけたが、源右衛門は雄の生命を守るため、崩れた建物にはさまれて、すでに亡くなっていた。
115話
大正12(1923)年9月1日、関東地方を激しい地震が襲った。関東大震災である。
おしんと竜三は、上野へ避難した。東京がどうなっているか、自分たちがどういう立場におかれているか、最初はおしんたちはわからなかった。
ようやく田倉商会にたどり着くが、あたりは焼け野原で、店も家も焼けてしまっていた。
新しく作ったばかりの工場まで灰になったと知った竜三は、放心状態になってしまった。
116話
苦労して建てた新しい工場が、関東大震災で灰になってしまったことを知った竜三は、放心状態になってしまった。
おしんは、田倉商会の焼け跡での野宿を覚悟していた。
これからどうなるのか、まったくあてのない暮らしであった。
そんな中、竜三は急に佐賀に帰ると言い出す。
しかし、おしんは、「自分はまだ佐賀のお姑さんに嫁と認めてもらえない女だから、佐賀に行く気はない」と言い放った。
117話
おしんは、母・ふじに、夫婦が別れ別れになるのはいけないと説得される。
おしんは、竜三について佐賀に行くしかないのかと、あきらめた。
そして、おしんと竜三は、避難者を無償で輸送する軍艦に乗って、東京をあとにした。
おしんにとって佐賀は遠く、心の重い旅であった。
重い心と脚をひきずりながら、やっとたどりついた佐賀の田倉家の門の前で、おしんはなぜか足がすくむのだった。
118話
店も工場も失い、借金だけが残った竜三は、焼け野原の東京を捨て、故郷の佐賀へ帰ってきた。
しゅうとめの清に嫁として認められていないおしんにとっては、気の進まないことだった。
佐賀でどんな暮らしが始まるのか、おしんには見当もつかなかった。
清の気に入る嫁になれるか、不安を抱えながらも、今までと同じように精いっぱい生きるしかないと、覚悟を決めるしかなかった。
119話
おしんは、この家のしきたりが、わかり始めていた。
男女には、はっきりけじめがあり、嫁の立場は一段と低く、同じ嫁でも長男と他の嫁とでは、格が違うことを悟った。
しゅうとめの清は、竜三とおしんに畑の開こんを命じた。
おしんは、小作の耕造の妻・佐和に会い、佐賀に来てからの緊張や傷つけられて冷えた心が、あたたかくほぐれていくのを感じていた。
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120話
被災して田倉の本家へ戻ったおしんと竜三は、翌日から働かなければならなかった。
居候の身として当然のことだと、おしんは思った。
また、しゅうとめの清や兄嫁・恒子の意地悪く聞こえる言葉も、田倉の本家のしきたりや歴史を考えれば、無理もないことで、おしんは誰を恨む気持ちもなかった。
しかし、さすがのおしんでも、畑の開こんの仕事は、思いがけずつらいものであった。
121話
財産分与の形で、独立したはずの田倉家の三男・竜三が、関東大震災で無一文になったうえに、姑・お清が認めていない、東京で勝手に一緒になった嫁・おしんを連れて突然、帰郷してきた。
おしんは、お清に歓迎されないのは当たり前だと思い、覚悟のうえであった。
しかし、ことごとくお清と考え方が食い違い、兄嫁にも冷たくされると、これから先のことを考え、暗い気持ちになった。
122話
夫・竜三の佐賀の実家へ住むようになってからしばらくの間に、おしんは、いやというほど居候の嫁の悲哀を味わっていた。
そのうえ、見知らぬ土地の知らない人ばかりの中で、唯一頼りにしている竜三との間も、しゅうとめをはさむといつかギクシャクしたものになっていて、おしんの孤独は深くなるばかりであった。
そんな中、竜三は有明海の干拓の組に自分を入れてほしいと父・大五郎に訴える。
123話
おしんは、竜三が有明海の干拓の作業に出るようになってからは、お清や義兄と畑仕事をする日が多くなった。
義兄に、竜三の分まで働かないと、居候夫婦の食事代は出ないといやみを言われ、おしんは、意地になって畑仕事に精を出した。
おしんは、いつかこの家を出ようと心に決めた。
そして、誰にも吐き出せない思いをひとりで背負い、いつしか口数の少ない女になっていた。
124話
おしんの運命を変えた大正12(1923)年が暮れ、おしんは佐賀で新春を迎えた。
佐賀の田倉本家での暮らしは、おしんにとってつらいことばかりだった。
しかし、髪結いの師匠・たかからのハガキが、暗いおしんの胸に希望のあかりをともしてくれた。
おしんは、3月になったら、東京で髪結いの店を再開するたかを頼って上京することを心に決め、何事も春になるまでの辛抱だと自分に言い聞かせた。
125話
作男の耕造の妻・佐和が掘り割りへ身投げをした。
佐和とは働く畑が違い、おしんは、ゆっくり佐和に会う機会がなかったが、いつも仲よく夫婦で畑に出ている佐和を見ていただけに、ショックであった。
田倉家の暮らしの中で、同じように追いつめられていたおしんは、佐和の自殺未遂がひと事とは思えず、胸をしめつけられていた。
おしんは、佐和と一緒に東京へ行く計画を進めることにした。
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126話
田倉家を出て、息子とふたりで東京へ行くというおしんの決心は固かった。
佐和を誘ったのは、身投げまでした佐和のつらさが、おしんにはひと事と思えず、よそもの同士、助け合って生きていくつもりになったからである。
東京へ出発する日を決め、佐和と段取りも話し合った。
出発の日、おしんは雑木林の日だまりで、汽車の時間を待った。
佐和とうまく落ち合えるか、それだけがおしんの気がかりだった。
127話
髪結いの師匠・たかが店を再開したと聞いて、おしんは、東京へ戻る決心をした。
しかし、事前にそのことが夫の竜三に知られてしまい、激しいもみあいになった末、おしんは首から肩に、大ケガを負ってしまった。
ケガをしたおしんは「東京へ行けないんだったら、死んだほうがましだ!」と絶叫する。
竜三に、おしんの東京行きの計画を知らせたのは、佐和だったのだ。
128話
おしんのケガは、思いがけずひどかった。
激しい出血による衰弱と、傷からくる発熱で、おしんは3日間、こん睡状態が続いていた。
息子の雄は、お清にとりあげられてしまった。
お清は、おしんにケガをした本当の理由を話せと責めたてたが、今のおしんには何も言葉を返すことはできなかった。
いずれ、田倉の家を出るにしても、当分は無理である。
おしんは、おとなしくケガが治るのを待つしかなかった。
129話
おしんは、大ケガのショックに耐えて、育ち始めている自分の体の中の小さな生命のことを思った。
生まれてくる子が、田倉家にとって迷惑になるだけで、祝福されないことがわかるので、つらくみじめな気持ちだった。
ケガをしてから10日ほど過ぎたが、おしんの右手は、ケガのせいで思うように動かなくなってしまった。
まだケガが十分に治っていないせいだと、おしんは自分自身をなんとか慰めようとした。
130話
おしんの体の中にも、竜三の妹・篤子と同じように、小さな生命が育っていた。
篤子の子どもは、みんなから祝福され、おしんの子どもは、まだ誰にも知られずに、おしんの体のなかで息づいている。
おしんは、明暗を分けた小さな生命があわれでならなかった。
畑仕事に出たおしんに、佐和が話しかけるが、おしんは「私に近寄らないで!」と思わず大声を出してしまう。
131話
おしんにとって、救いのない日々が続いていた。
ケガをして1か月が過ぎたのに、右手の自由は戻らず、思うように働けないことが、しゅうとめのお清との仲をますます冷たいものにしていた。
竜三も、お清とうまくいかないおしんを遠ざけるようになった。
おしんは、5か月になるおなかの子のことを誰にも言えないでいた。
田倉の家族の間では、お清が竜三に「おしんと別れなさい」と言い出した。
132話
おしんの右手は、大ケガのあと、自由が利かなくなってしまった。
義父・大五郎が連れていってくれた町の医者は、右手が動かない原因がわからないと言った。
おしんの右手がなおる見込みがないと考えたしゅうとめのお清は、竜三におしんとの離婚を迫った。
しかし、おしんのおなかに子どもがいることを知った竜三は、おしんを精一杯かばい、おしんのことをいたわるようになった。
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2019年9月放送分(133話~157話)
133話
竜三は、おしんとお清の板ばさみになってしまい、おしんから心が離れていたが、おしんがみごもっていると知らされてから、夫婦の心のふれあいをとり戻した。
しかし、おしんが佐和を誘って東京へ家出しようとしたことが今頃になってお清の耳に入り、お清を激怒させてしまった。
お清は、畑から帰ったばかりのおしんに、「今すぐここを出て行け!」とどなるのだった。
134話
おしんと竜三の間には、新しい生命の芽生えをきっかけに、また昔のような愛の絆が生まれていた。
このまま田倉の家を追われても仕方がないと覚悟していたおしんだけに、竜三の思いやりがあれば、どんな苦境も乗り越えられると喜んだ。
しかし、お清はおしんを許していなかった。
お清にとっては、竜三の妹・篤子の出産の方が、おしんの出産よりずっと大事だったのである。
135話
関東大震災ですべてを失ったおしん夫婦が、竜三の実家へ世話になって8か月が過ぎた。
おしんは、しゅうとめのお清の冷たい仕打ちについてゆけず、夫婦の仲まで冷えてしまい、一度は東京へ家出をしようとまでした。
しかし、二度目の出産をひかえ、なんとか竜三との心のふれあいをとり戻すことができた。
おしんは、田倉家の嫁として、田倉家で子どもを産み、田倉家の人間になろうと決心する。
136話
しゅうとめのお清は、竜三の妹・篤子が田倉家へ帰ってきてお産をするために、篤子と同じ月に子どもを産むおしんを他家へ出そうと考えていた。
迷信にこだわり、どこまでも娘を大事にするお清に、おしんは嫁という立場の情けなさを思い知った。
しかし、嫁だからといって、なにもかもしゅうとめのいいなりにならなければならないことが、おしんには理不尽に思え、怒りがわいてくるのだった。
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自立編(第137回~第185回)
137話
おしんは、しゅうとめのお清にさからって、田倉の家で子どもを産むことに決め、これまで以上に懸命に畑仕事をした。
田倉の家の人間になる以上、お清に文句を言われないように働かなければという、おしんの意地だった。
お清が篤子を出産のために嫁ぎ先から連れて帰った。
おしんは、お清の執拗な嫌がらせを受けても、田倉の家で子どもを産まなければならない自分がみじめでならなかった。
138話
しゅうと・大五郎の好意も、母・ふじの精いっぱいの思いやりも、お清にかかると、おしんを責める材料になってしまうのが、おしんは悔しくてたまらなかった。
そんなとき、おしんは子どもを産んで田倉の嫁になろうと思いながらも、心が揺れ動いた。
竜三さえ頼れないひとりぼっちのおしんにとって、母からの優しさがこもった手紙と、心づくしの品が胸にしみるのだった。
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139話
しゅうとめのお清は、どんなことでもおしんを責める材料にするので、おしんは悔しくてたまらなかった。
田倉家の嫁になろうと思いながらも、そんなとき、おしんの心は揺れ動いた。
大正13(1924)年秋、おしんは臨月になっても畑仕事をさせられていた。
義父がお清に意見してくれたので、畑には出なくてよくなったが、竜三はお清をかばい、おしんに厳しい言葉をぶつけた。
140話
ある朝、おしんは体がしんどくて起き上がれないほどだった。
午前5時半に田んぼへ出て、夜の7時まで真夏の太陽の下で働く消耗の激しい毎日で、身重のおしんには体力の限界だった。
義父・大五郎の指示で、おしんは一時は畑に出なくてよくなったが、姑のお清に、家族みんなの前でひどい嫌みを言われてしまい、それからはどんなに体がつらくても二度と畑仕事を休むことはなかった。
141話
おしんは、竜三の妹・篤子も自分も元気な子を産めるように祈っていた。
出産の日を今日か明日かと待ちながらも、おしんは稲刈りに出なければならなかった。
生まれてくる幼子を抱えながらの労働は、今までより苦しいことは覚悟していた。
篤子は難産の末、無事に出産した。
しかし、その明け方、おしんが雨の中、気を失ってボロ布のように裏庭の水たまりに倒れているのを竜三が発見する。
142話
義妹・篤子は難産の末、無事に出産した。
しかし、おしんには不幸な一夜となった。
おしんの出産は、誰にも助けてもらえず、ひとりぼっちだった。
子どもが死産だったと告げられたおしんは、子どもの死をすぐには信じられず、もうろうとしながら自分が名付けた「愛」という死んだ子の名前を繰り返し呼び続けた。
おしんの心に深く刻まれた傷と、ひとりでくぐり抜けた地獄は誰にもわからないものだった。
143話
産まれた子どもが死産だったと聞かされてから、おしんはものを言わない女になってしまった。
竜三は、うつろなまなざしでぼんやり床の上に座っているおしんを見ると、おしんの心の傷がどれほど深いものか、あらためて思い知らされながら、看病していた。
おしんは「早く元気になって出直さなきゃ」とつぶやいたが、そのとき、おしんが何を思いつめているのか、誰も本当のことを分かりはしなかった。
144話
おしんにとっては、皮肉なことに佐賀へ来て初めて平和な日が訪れていた。
おしんは、母乳が出ない篤子の代わりに、篤子の子どもに母乳を与えていた。
家族からは、子どもを失ったおしんが次第にその悲しみから立ち直っていくように見えた。
篤子が嫁ぎ先に帰った後、おしんは竜三に「私も思い切ってここを出るわ。ここにいても何にもならないってことがよくわかったの」と話を切り出した。
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145話
誕生したばかりの女の子を、発育不全で失ったおしんは、田倉の本家を出る覚悟を決めていた。
しかし、義妹・篤子の子が母乳が足りなかったので、おしんは代わりに自分の母乳を与えた。
篤子の子が嫁ぎ先へ帰ってしまうと、おしんが田倉の本家にいる理由はなくなっていた。
おしんは、息子を連れて東京へ出るつもりだったが、しゅうとめの清から息子を渡してもらうことは、絶望的であった。
146話
おしんが田倉の家を出る日が来た。これからどうなるのか、当てもなく、田倉家の人たちに背いての寂しい旅立ちであった。
おしんのために、義姉・恒子が息子の雄を、しゅうとめ・清の目を盗んで田倉の家から連れ出してきてくれた。
思いがけない義姉の好意であった。
佐賀を離れるにつれて、田倉の家をやっと出られた安どにかわって、将来への不安が、おしんの胸を重くしていた。
147話
大正時代の末期、佐賀から東京までは3日がかりの旅だった。
幼い息子を連れて東京へ着いたときは、さすがのおしんも疲れ果てていた。
広い東京で迎えてくれる人も家もなかった。
おしんが頼れる人は、髪結いの師匠・たかしかいなかった。たかは喜んでおしんを迎えてくれた。
おしんは、そんなたかに、産まれたばかりの子を発育不全で失ったことなど、佐賀でのつらかった出来事を話し始めた。
148話
おしんは、ケガの後遺症で髪が結えなくなった自分に対するたかの優しいふるまいに感謝していた。
しかし、髪が結えないとわかった以上、たかの家に世話になる理由はなくなっていた。
おしんは、誰にも迷惑をかけず、東京で息子と2人で生きていける仕事をみつけなければならないと思った。
そして、改めて子どもをかかえた女が働くことの厳しさを思い知らされ、広い東京での孤独をかみしめていた。
149話
仕事の見込みが立たず、重い心をひきずって、たかの家に帰ってきたおしんを待っていたのは、懐かしい健の笑顔であった。
露店商の縄張りを取りしきっている健が世話を焼いてくれて、おしんはどんどん焼きの露店を始めることになった。
おしんの胸に久しぶりに温かい思いがよみがえっていた。
おしんは気心の知れた人たちのなかで、誰にも遠慮なく、思い切り働けることが嬉しかった。
150話
おしんは、露店商の縄張りを取りしきる健の世話で、どんどん焼きの店を始めることになった。
息子の雄の面倒をみながら、材料の仕込みから下ごしらえなど、昼から夜までの店の仕事でおしんの一日は忙しく明け暮れていた。
大正14(1925)年になり、おしんは、佐賀の竜三に手紙を書いた。
おしんの夢は、親子3人が肩を寄せ合って暮らせる日が再び来ることであった。
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151話
おしんに、やっと心やすらぐ日々が訪れていた。
寒い季節に始めた露店商の仕事は、決して楽ではなかった。
しかし、自分の腕で稼いで食べることができ、誰にも気兼ねすることなく、息子の雄と二人きりの暮らしができるのは、佐賀でつらい日々を過ごしてきたおしんにとって、天国のように思えた。
そんなある日、おしんのところへ、健の恋人・ミドリが突然どなりこんできた。
152話
おしんのところへ、健の恋人がどなりこんできた翌日、おしんはあわただしく身の回りを整理していた。
ここを出てどこへ行くか、当てなどなかったが、ここにはいられないという気持ちがおしんを追い立てていた。
おしんは、山形へ帰る決心をした。父が亡くなって以来、4年ぶりの帰郷であった。
その4年間に、結婚、関東大震災、二度の出産と、身も心も疲れ果てた末の、みじめな帰郷であった。
153話
おしんは、母のふじだけには心配をかけたくなかったので、今まで山形へ帰ることをためらってきたが、ここまで追いつめられると、身を寄せられるところは、母のいる故郷しかなかった。
それは、不幸を背負ったみじめな帰郷であった。
ふじは、そんなおしんを温かく迎えてくれた。
しかし、もう兄・庄治の代になっている山形の実家は、おしんには決して居心地のいい場所ではなかった。
154話
おしんは、今まで山形へ帰ることをためらってきたが、追いつめられると、身を寄せられるところは、母・ふじのいる故郷しかなかった。
しかし、おしんが来たことが原因で、おしんをかばう母と兄・庄治夫婦の間でケンカが絶えなくなった。
おしんがそんな雰囲気を気遣って「田畑の仕事を手伝う」と申し出ると、兄は「うちには、おまえに手伝ってもらう田も畑もない」と言い放つのだった。
155話
佐賀の田倉の家を出たおしんは、息子とともに山形の実家へ身を寄せた。
しかし、かつておしんが仕送りを続けてなんとか支えていた家も、安住の場所ではなくなっていた。
おしんをやっかい者扱いする兄・庄治夫婦と、母・ふじとの間にケンカが絶えなくなったことが、おしんにはつらかった。
そんなある日、おしんは、加賀屋の大奥様・くにが危篤だと聞いて、酒田へかけつけた。
156話
おしんは、加賀屋の大奥様・くにが危篤だと聞いて、酒田へかけつけた。
くにはこん睡状態が続き、おしんの声もくにの耳には届かなかった。
看病に疲れている家族に代わって、その夜、おしんはくにに付き添っていた。
そのとき、目を覚ましたくには遺言のように
くに「加代のことをよろしく頼む。これからも加代の力になってほしい」
とおしんに加代のことを託して、安心したかのように76年の生涯を終えた。
157話
大正14(1925)年5月、加賀屋のくにが76歳で亡くなった。
くには、8才から16才まで加賀屋に奉公したおしんを、孫娘の加代と同じようにいつくしみ、女としてのたしなみをしつけてくれた恩人であり、師でもあった。
おしんは、くにの葬儀を手伝い、初七日までくにのそばにいたいと、加賀屋で世話になることにした。
そのおしんに、加代が酒田で商売をしないかと切り出した。
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2019年10月放送分(158話~184話)
158話
加賀屋の援助で、おしんは酒田で、船仕事をする人たち相手の飯屋を出すことになった。
秋に、佐賀の田倉家を出てから、東京、山形とめまぐるしい変転の後に、やっとたどりついた暮らしであった。
おしん、25才、大正14(1925)年の暑い夏のことだった。
いよいよ開店の日、朝食の客のために午前6時に店を開くため、おしんは午前3時に起きて支度にかかった。
しかし、開店初日はひとりも客が来なかった。
159話
加賀屋の援助で、酒田に飯屋を開いたおしんは、開店初日から商売の自信を失っていた。
ひとりも客が来なかったのである。
おしんは、考えあぐねた末に、翌日から3日間店を閉めてしまった。
その間、おしんは手書きで広告のチラシを何十枚も書いて、電信柱に貼ったり、一生懸命街角で配った。
そのかいがあって、ついに最初の客が来てくれた。
加代も、おしんの商売が心配で、店の手伝いにかけつけた。
160話
おしんの店には、開店初日、ひとりの客も来なかった。
しかし、おしんが書いた広告のチラシの効果があったのか、さっそくその夜、43人もの客が来て、大変な忙しさであった。
おしんは、この調子だと親子2人が食べていけそうだと満足していた。
地道に飯屋をやるつもりで店を始めたおしんであったが、客から酒を飲ませろという注文があり、それを見た加代は、飲みたい客には酒を出そうと提案した。
161話
強引に夫の許しを得た加代は、おしんの店を手伝うようになった。
それが今の加代にとって生きがいだと知ると、おしんは何も言えなかった。
それでも、おしんはなるべく夜は加代を加賀屋へ帰すようにした。
早朝の仕込みと朝の定食はおしんの仕事で、加代は昼前になっておしんの店へ来る。
日を重ねるごとに客も増え、なじみの客もできて、おしんには働きがいのある店になっていた。
162話
加代は、おしんの飯屋を一生懸命、手伝っていた。
利益をあげるために、加代はお酒を出すことをおしんにすすめた。
おしんは、最初は反対したが、加代の意見に押し切られてしまう。
数日後、地域をとりしきる男たちが「安い酒を出されて迷惑だ」と店に文句を言ってきた。
そこで、困ったおしんが、浅草の露天で出会った健に教えてもらった「仁義」を切ると、男たちは自分たちの非礼を詫びるのだった。
163話
佐賀では、竜三の再婚話が進んでいた。
竜三は断るも、しゅうとめ・清は、独断で祝言を伸ばしていた。
一方、酒田ではおしんの飯屋に、突然浩太が現れた。
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164話
思いがけない浩太との再会。しかし、今のおしんには会いたくない人であった。
夫と別れ、子どもを抱えてひとりで生きているみじめな自分を、浩太には見られたくなかった。
今、浩太と言葉を交わしたら、おしんは泣いてしまいそうな気がした。
一方、浩太は、おしんが伴侶を得て幸せになったと思っていたのに、酒田で気の荒い男たちを相手にする飯屋で働いていることが信じられなかった。
165話
おしんと再会した浩太は「おしんさんの力になれるなら、雄の父親になる」と言う。
かつて、おしんが、一生浩太についていきたいと願ったあの日から、何年もの歳月を経て、おしんの思いがかなおうとしていた。
おしんと浩太の間に、静かな愛がよみがえろうとしていた。しかし、おしんは、もうあの時のおしんではなかった。
おしんには、浩太の愛情を素直に受け入れられないためらいがあった。
166話
おしんが佐賀の田倉家を出てから、1年と2か月が過ぎていた。
その間、佐賀に残った竜三からは一通の便りもなく、おしんは夫婦の縁も切れたと思い、雄と母子二人で生きる覚悟をしていた。
佐賀では、竜三が、義姉から渡されたこれまでのおしんの手紙を読んで、おしんの本当の気持ちを理解し、仕事が成功したら、独立しておしんを佐賀へ呼び寄せようと心に決めた。
167話
おしんが佐賀の田倉家を出てから、1年と2か月が過ぎていた。その間、佐賀の竜三からは一通の便りもなく、おしんは夫婦の縁も切れたと思い、雄と母子二人で生きる覚悟を決めていた。
竜三から手紙が届いたのは、そんな大正15(1925)年の新春だった。
ケンカする客たちを体を張って止めるおしんの姿を見て、心配した浩太は「もっと自分を大切にしなきゃだめだ」と忠告した。
168話
おしんには、ただ夢中でやってきた商売であった。これしか生きる道はないと思って、捨て身で打ち込んできたのである。
しかし、浩太の言葉には、おしんの胸に重くこたえるものがあった。
おしんは、こんな自分にほかに何ができるのだろうかと考えたが、見当もつかなかった。
169話
おしんが酒田を去る日が来た。
8才で加賀屋へ奉公し、8年の歳月を過ごした酒田へふたたび帰ってきたおしんだったが、酒田もおしんの永住の地にはならなかった。
おしんの努力で繁盛し始めた飯屋も、浩太の忠告や、加代のことを考えると、おしんには店を続けられなかった。
おしんが酒田を出発するという前の日の夜、店には浩太と加代が来て、お互いの別れを惜しむ酒になっていた。
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170話
浩太の世話で、おしんと息子の雄が身を寄せたのは、網元の女主人・ひさのところであった。
ひさは、浩太から頼まれた通り、さっそくおしんを魚の行商に出した。
しかし、すでに同業者が周辺の町や村に縄張りを持っているところへ、新参者のおしんが食いこむのは並大抵ではないということを、おしんは身にしみて悟ったのだった。
初日はとうとう魚は一匹も売れなかった。
171話
初日は、魚が一匹も売れなかったので、おしんは売れ残った魚を無料で人々にあげてしまった。
翌日も、破格の安さで魚を売ってしまったため、行商仲間からのクレームがひさのところに集中した。
172話
漁のあるかぎり、毎日、おしんは雄と魚をのせた箱車を押して、周辺の町から村を歩いて回った。
他の行商仲間より少しでも安くし、もうけは数を売ることで補う。
それは、他人の倍も体を使わなければできないことであった。
しかし、おしんの若さと努力と誰よりも安い魚が、日を追うごとに信用を呼んで、ひいきの客を増やしていった。
おしんの願いは、いつか独立して、自分の店を開くことであった。
173話
おしんが伊勢へ来て一年が過ぎていた。
おしん独特の「心を売るという商法」でひいきの客が増え、おしんは雄と毎日行商に出ていた。
雄と歩きながら、おしんは母親の幸せを知るようになっていた。自分の魚屋を持つのがおしんの夢であり、ひさも、そろそろ落ち着くようにすすめてくれた。
しかし、おしんは夫・竜三の考えていることがわからず、店を持つべきかどうか迷っていた。
174話
台風の激しい風と波の音のせいで、眠れないおしんの胸に、なぜか不吉な予感が生まれて消えなかった。
佐賀では、猛威をふるった台風の被害で、田倉本家が大変な損害を受けた。
田倉家の稲は、すべて水につかってしまい、駄目になってしまった。
干拓の成功を夢みて4年間ひたすら頑張ってきた竜三は、絶望し、置き手紙を残して家出した。
その竜三が、三重県伊勢のおしんのところに突然、姿を現した。
175話
おしんの人生に、また、ひとつの大きな転機が訪れた。
おしんが佐賀の田倉本家を出て3年が経っていた。
佐賀へ残って離れ離れの暮らしが続いていた夫・竜三が突然、田倉家を出て、おしんと息子の雄の前に姿を現した。
竜三は、夢をかけていた有明海の干拓地を、一夜の台風で失い、失意のなかで満洲に旅立とうとしていた。
それは、いつまた会えるかわからない夫婦の別離だったのである。
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176話
おしんは自分の耳を疑った。竜三が満洲行きをやめて、おしんと一緒に魚屋をやろうと言い出したのだ。
おしんにはとても信じられなかった。
竜三が一緒に暮らすことになり、おしんの生活はあわただしく変わろうとしていた。
おしんもやっと独立して魚屋の店を出す決心をしたのである。
店がうまくいくかどうか、おしんは自信がなかったが、竜三がそういう気持ちになってくれたことが何よりうれしかった。
177話
魚屋として、おしんと竜三夫婦は新しい出発を迎えていた。
竜三は夜が明ける前に起きて、魚が水揚げされる港まで仕入れに出かけた。
おしんは、竜三がいつまで過酷な仕事に耐えられるか、不安であった。
そこで、おしんが竜三に魚についての知識やさばき方を教える特訓を始めた。
それは、おしんが魚屋になりきろうとしている竜三の気持ちがうれしくて、始めたことだった。
178話
行商をやめて、魚の御用聞きに回るのは、新しい試みであった。
しかし、おしんに楽をさせ、自分も魚屋になりきろうとしている竜三の気持ちを、おしんは無にしたくなかった。
竜三の気持ちを大事にすることで、やっと夫婦の絆をとり戻せたとおしんはうれしかった。
竜三のひたむきな努力がお客の好感をよび、注文もしだいに多くなった。
おしんと竜三夫婦の誠実な商いが信用されて、店への客も増えていた。
179話
昭和2年秋に、夫婦で魚屋の店を出してから、1年半の歳月が流れていた。
おしんの息子の雄は6才になり、昭和4年春、小学校へ入学することになった。
雄の成長だけを楽しみに生きてきたおしんには、何よりもうれしいことだった。
雄の入学式を、おしんは母のふじに一緒に喜んでもらうために、山形からふじを呼び寄せた。
雄の入学式が終わり、ふじは帰り仕度を始めていた。
180話
雄の入学式に、はるばる山形から伊勢へ出てきたふじは、入学式が終わると、すぐ山形へ帰る支度をしていた。
おしんや竜三の重荷になるまいと、すぐに伊勢を出発する決心をしたのである。
おしんは、兄の庄治からやっかい者扱いされているふじを山形へ帰すのはしのびなかったが、ふじを引き止める口実が見あたらず、胸を痛めていた。
そんなとき、おしんの三度目の懐妊が発覚した。
181話
昭和4年10月、おしんは、2人目の男子を出産した。
おしんにとって何よりもうれしい次男の誕生であった。
身重のおしんを手伝うという名目で山形から伊勢へ出てきた母・ふじも、大いに喜んだ。
しかし、喜びもつかの間、ふじは疲労がたたったのか、倒れてしまった。
検査の結果は、白血病という診断であった。
しかし、それは竜三にだけ知らされ、他には誰の耳にも入れられなかった。
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182話
母・ふじの病気は治る見込みがなく、死期も近いと聞かされて、おしんは自分の耳を疑った。
次男の仁が誕生した喜びも一瞬にして消え失せていた。夢なら覚めてほしいと願った。
しかし、ふじは日々衰弱していき、医者にもおしんにも手のほどこしようがなかった。
おしんは、必死に看病し、神仏に祈った。
「山形の家で死にたかった」というふじの言葉に、おしんは、ふじを山形へ連れて行く決心をする。
183話
ふじは、おしんが山形へ連れて帰ってくれるということに、死期が近づいている自分の生命を悟った。
ふじは、二度と見ることのできない孫の雄と仁の顔を、まぶたに焼きつけておこうとするように、いつまでも雄と仁の顔をみつめていた。
伊勢から山形まで、病人を連れての旅は、遠かった。
おしんは、母の体を自分の背中に縛りつけて歩いた。しかし、その母の軽さが、おしんは悲しかった。
184話
最後の親孝行にと、おしんが母・ふじを山形へ連れて帰った翌日、ふじは懐かしい家へ帰れたことを喜びながら、眠るようにこの世を去った。
母のいない故郷の家は、おしんにとってもう縁のない家であった。
ふじの野辺送りをすますと、おしんは、祖母や両親の思い出がしみついた家に、最後の別れを告げて、故郷を去ろうとしていた。
母を失い、故郷に決別してきたおしんには、悲しい帰りの旅であった。
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2019年11月放送分(185話~210話)
185話
加賀屋をとりしきっているはずの加代の夫が自殺したという知らせを、おしんはおりきからの手紙で知らされた。
おしんは、毎日、加代からの連絡を待った。しかし、加代からも浩太からも何の知らせもないままに、昭和6年の春がめぐってきていた。
おしんの店も不況のあおりを受けていたが、おしんと竜三夫婦の人柄が町の人たちに愛されたので、商いは減ってもなんとかもちこたえられていた。
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太平洋戦争編(第186回~第225回)
186話
昭和5年の春、加代の夫が自殺し、酒田の加賀屋が倒産した。加代とその両親の行方がわからなくなったと、おしんが聞かされてから1年がたっていた。
加代たちの行方もわからないまま、なかばあきらめかけていたおしんの前に、ひょっこり浩太が現れた。加代がみつかったという。
東京へ加代を探して旅立ったおしんは、健の力を借りて加代の居場所を探し当てる。
187話
加賀屋が倒産し、加代や、その家族の行方がわからないまま一年が過ぎた昭和6年、おしんは、浩太から加代がみつかったと知らされ、上京した。
おしんはまず、たかを訪ねた。たかは健を呼び寄せて、おしんの案内を頼んだ。
加代の住所を探しあてた時、おしんは女ひとりでは来られぬところだったと思い知り、心の冷える思いで加代の暮らしを悟っていた。
188話
再会した加代は、多額の借金があるので、この場末の安いカフェからはもう抜けられないと語った。
翌日、ふたたび加代のところを訪ねたおしんは、加代が急死してしまったことを知らされた。
おしんは、加代の遺体を前に、「希望坊ちゃまを、自分の子どもとして立派に育てあげます」と誓った。
おしんは、希望をしっかりとおぶり、加代と加代の両親の骨つぼを抱いて伊勢へ帰って来た。
189話
おしんは竜三と話し合い、あらためて希望を引き取ることと、加代たちのお墓を伊勢に作ることを決めた。
190話
昭和6年の春、祖父母と母親の加代を失った希望を引き取ったおしんは、8才の長男・雄と1才半の次男・仁、そして仁と同じ年の希望と、3人の男の子の母親になった。
相変わらずの不景気の中で、おしんと竜三は、3人の子どものために、以前にもまして商売に精を出すのだった。
昭和6年の9月、満洲事変が勃発した。そのとき、おしんは、31歳になっていた。
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192話
加代が死んで、その子、希望を引きとったおしんと竜三夫婦は、希望を自分たちの子、雄と仁の兄弟として、同じように愛情を注いで育てていた。
おしんは、3人の男の子のために、魚屋を生涯の仕事と決めて、念願だった冷蔵庫を置き、自転車も買った。
おしんは、やっとささやかな幸せをみつけていた。そんな時、伊勢に浩太が来ているという知らせがあった。
192話
浩太が特別高等警察に捕まった。
おしんは、浩太の運動を長くみつめてきて、浩太の考え方にも共鳴し、その情熱に熱い思いを抱いたこともあっただけに、浩太が生きられない世の中を怖いと思った。
また、何もできない無力な自分が疎ましかった。
しかし、商売と三人の子育てに追われるおしんには、日々の暮らしが精いっぱいで、いつか浩太の記憶も遠いものになっていた。
家族を守ることに必死だったのである。
193話
おしんは、雄と仁と希望の子育てと、魚屋の商売に追われていた。
昭和10年、雄は小学校を卒業し、仁と希望は小学校へあがるまでになった。
東京の健が伊勢のおしんの家を訪れた。健は、9才になる初子という女の子を連れていた。
これが、おしんと、見ず知らずの少女・初子との運命的な出会いとなった。
おしんは、健の説明を聞いて、初子を自分の子どもとして預かる決心をした。
194話
思いがけず、おしんと竜三夫婦は、9才の少女・初子を健から引き取ることになった。
おしんには、幼い初子が自分の分身のように思えて、愛しくてならなかった。
また、雄の中学受験の合格を願う初子のけなげな心に、初子がこの家の家族になってくれた気がしていた。
雄は無事に県立の中学に合格し、一家に明るい春が訪れた。
しかし、おしんの心には、まだ重いしこりがわだかまっていた。
195話
おしんにとって、昭和10年はうれしい節目の年になった。
長男・雄は地元の県立中学校に合格し、仁と希望もやっと小学校に入学する年齢になっていた。
そのうえ、佐賀で産まれてすぐに死なせてしまった女の子の代わりのような初子を、家族に加えることができたのである。
子どもが増えれば、それだけ苦労も増えるが、おしんも竜三もそれがかえって、働く張り合いになっていた。
196話
長男・雄の中学入学と、仁と希望の小学校入学を無事に終え、おしんには平穏な日々が続いていた。
小学校入学を機会に、希望が八代家のたったひとりの跡継ぎであること、おしんと竜三が実の両親ではなかったことを、おしんは希望に話して聞かせた。
希望はショックだったようだが、のりこえてくれたとおしんは信じた。
しかし、入学してまもなく、希望が家出をした。
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197話
おしんに子どもが生まれると知って、雄も仁も希望も初子も目を輝かせていた。
家族みんながその日を待ち望むなかで、昭和11年の2月26日、おしんは、無事女の子・禎を出産した。
おしんが、禎を病院から家に連れて帰ってくると、初子がよく禎の子守りをした。
学校から帰ってくると、おしんが店へ出ている間、背中におぶって、夕飯の仕事をするのが初子の日課になった。
198話
初子が山形へ帰らずに田倉の家にいることになって、田倉家はまた明るさを取り戻していた。
おしんは、初子の両親に初子の給金を送り、年季奉公のかたちにはしたが、今までと同じように娘のつもりでいとおしんだ。
軍部が日本の運命を握るようになり、戦争への道を歩み始めていたが、日々の暮らしに追われるおしんには、関わりのない出来事だった。
しかし、おしんが急激な時代の流れを思い知らされる出来事が起こった。
199話
昭和12年、おしんにとって、まだ戦争の残酷さも、おそれも切実なものではなかった。
5人の子どもの暮らしを守ることのほうが大事であった。
年の暮れ、竜三の次兄で陸軍少佐の亀次郎が、田倉家を訪れた。
いかめしい軍服姿の亀次郎がわざわざやって来た意図がわからず、おしんは、なぜかいやな予感がして不安であった。
亀次郎は、竜三に軍に食料品を納める仕事を勧め、竜三は乗り気であった。
200話
竜三の兄・亀次郎がやって来て、竜三に連隊に食料品を納める仕事を勧めた。
その夜、おしんの脳裏には、幼いころ、ひと冬を共にした脱走兵・俊作の思い出がよみがえった。
戦争の残酷さと、二度と戦争をしてはならないと教えてくれた俊作の言葉は、おしんの心に刻まれているのに、もう自分の力ではどうにもならなくなってしまっているのが、おそろしくもあり、悔やまれてならなかった。
201話
おしんは、竜三は、ほかならぬ5人の子どもたちのために、軍の大きな仕事に夢を託しているのだと、しみじみと竜三の顔をみつめていた。
自分と同じ思いの竜三が、ふとおしんには、たまらなくいとおしかった。
何も言わずに、この人についていこう。
そのとき、おしんはひとつの人生をはっきりと選んだのである。
そして、昭和13年が明けて早々に、連隊へ食料品を納める業者の入札が行われた。
202話
竜三は、軍人の兄の忠告と助力を受け、昭和13年の初めに、近くの連隊へ魚を納める御用商人になった。
これからは、軍の息がかかったものでなくては、商人としても生き残れないことを知って選んだ道であった。
しかし、竜三の選んだ道が、果たしてよかったのかどうか、おしんはまだ不安であった。
軍に頼って暮らしを立てることになってしまったうしろめたさが、おしんの心に影を落としていた。
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203話
おしんは、雄の進学希望校が陸軍士官学校だと聞かされ、自分の耳を疑った。
いつも母親思いの優しい心遣いをしてきてくれた雄を、この子だけは母親の気持ちを知ってくれていると信じてきただけに、思いがけない言葉であった。
反対するおしんを、雄は父親の竜三と一緒になって責めた。
息子も夫も、おしんとは違う世界の人間になってしまった気がして、おしんはむなしさにさいなまれていた。
204話
これまで手放したことがなかった雄を京都へ送り出して、おしんは体の一部を削りとられたような気がしていた。
しかし、いつかは、ひとりで突き放さなければならないと覚悟していたおしんには、母親のひとつのつとめを果たしたような別れであった。
おしんは、雄を戦争から守りたい一心で、京都の高等学校へ入学させたが、既に大学でも軍事教練が必須科目となり、戦争の影はしのび寄っていた。
205話
昭和14年、戦争によって運命を変えられていく人々のなかで、おしんや竜三も例外ではなかった。
竜三は、軍の御用商人になったことから新しい事業のきっかけをつかみ、魚の練り製品の工場をスタートさせた。
昭和15年の新春を家族そろって無事に迎えられた田倉家は、竜三の仕事が軌道に乗っていることもあって、結婚以来、初めての物心ともに恵まれた元日を迎えていた。
206話
おしんは、雄が初子のことを好きだということを知ってしまった。
母親のおしんには思いがけないショックであった。まだ子どもだとばかり思っていた雄が・・・。
おしんは、ふと浩太に会ったころの自分のことを思い出していた。16歳であった。そういえば、雄もいつのまにか人を愛する年になっていたと、おしんは感慨無量であった。
そしてまた、初子のこの先の人生についても、考えるのであった。
207話
おしんは、とうとう魚屋をやめるときが来たと思った。
おしんには、特別の思いがある店であった。
夫婦の再出発に始めた魚屋をやめなければならない寂しさといっしょに、戦争への不安が、おしんの胸を暗くおしつぶしていた。
やがて厳しい配給制度を迎える前触れでもあった。
また、おしんは、竜三がどこまで事業を広げるつもりなのか、不安であったが、黙ってついていくしかないと諦めていた。
208話
おしんが引っ越してきた家は、旧家のたたずまいを残した広い屋敷で、立派すぎて、おしんは落ち着かないうえに、なぜか不安な予感さえしていた。
なぜこんな家に入れたのか、おしんは、竜三のしていることが不安でならなかった。
しかし、竜三の事業への意欲は、田倉家に平和な雰囲気を与えていた。
新しい家での一家だんらんの春休みが終わると、おしんは衣料品の縫製工場へ通うようになった。
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209話
おしんは、たかが隣組の組長になったくらいで意気込んでいる竜三の様子を見て、あきれていた。
この人は、一体、どこまでこの時勢に迎合していくのだろうと思うと、ふと背筋に寒いものを覚えていた。
昭和16年、田倉家では、仁と希望がそろって中学校へ進学した。
戦時色が強くなるなかで、まだものに不自由していない田倉家には、戦争の厳しさは遠いものであった。
210話
おしんは、いつのまにか戦争を賛美している雄が怖かった。
今の若者は、みな雄と同じような教育をされ、雄と同じ思いで戦場へ行くのだろう。
しかし、雄だけは母親の気持ちをわかってほしいとおしんは願っていた。
おしんも日本が勝つことを信じ、勝つためには精いっぱいのことをしなければと思っていた。
ただ、おしんは雄を戦場に送ることだけをおそれていた。それは、理屈をこえた母親の本能であった。
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2019年12月放送分(211話~231話)
211話
昭和18年秋、20歳の雄は、軍隊へ入隊するために、大学生活なかばで、下宿を引き払い、両親の家へ帰って来た。
おしんは、学生の間は兵隊にとられることはないと信じていたので、思いもかけないことであった。
雄の入隊を前に、おしんは入隊のことには触れず、雄も平静に気持ちの整理をしているようであった。
しかし、おしんにとっては、骨身を削るような毎日で、一生でいちばん長いひと月であった。
212話
雄の入隊を前に、おしんは入隊のことには触れず、雄も平静に気持ちの整理をしているようだった。
そして、盛大な見送りもなく、雄は、ひとりで田倉家をあとにした。
しかし、おしんは雄の気持ちを大切にすることで、見送ってやりたい母親としての気持ちを抑えこんだ。
雄が去ると、おしんには、ただ雄の無事を祈るだけの日々が残された。
おしんにとって、身を切られるようにつらい毎日であった。
213話
おしんと雄がようやく許された面会の時間は、ほんのわずかであった。
ふたたび、おしんには手の届かない世界へ去ってゆく雄の後ろ姿を見送りつつ、情け容赦なく息子を母親から奪う戦争というものを、おしんは心の底から憎んでいた。
軍隊や戦争のない時代に生まれたら、どんなに女は幸せだろう・・・。
そんなことは、夢でしかないとわかっていながら、おしんは暗い心を抱いて立ち尽くしていた。
214話
9才の禎をひとりで疎開させようとしたのは、おしんなりに戦局の危機を感じたからであった。
おしんは、両親や兄弟にもしものことがあったとき、禎がひとりで生き残るのはかわいそうな気もしたが、それでも、まだ戦争への分別もない禎を戦火にさらすのは、かわいそうでならなかった。
いやがる禎を、なんとか説得して、山奥の知人のところへ連れてゆくことになったのは、昭和19年秋のことであった。
215話
昭和20年が明けた。
南方へ送られたという雄からは何の便りもなく、ひとりで予科練を志願して、三重海軍航空隊に入隊した仁も訓練に追われてゆっくり手紙を書く暇もないらしく、面会さえ許されなかった。
東京をはじめ、主要都市への空襲は日を追って激しくなり、おしんは、疎開させた禎の様子を見に行く心のゆとりもなく、あわただしく毎日が過ぎてゆき、その年も春を迎えようとしていた。
216話
おしんは、空襲で燃えた家の火を、命がけで必死に消そうとした。それは、おしんの執念であった。
この家を手に入れるための竜三の苦労が、おしんの脳裏によみがえっていた。
もしこの家を灰にしてしまったら、雄や仁や禎が帰って来たときに、あたたかく迎えてやることができなくなる。
家を守るのは、母親のつとめだと信じていたのである。
昭和20年7月の夜のことであった。
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217話
昭和20年8月15日正午、おしんは、ラジオの玉音放送で、初めて15年にわたる長い長い戦争の時代が終わったことを知った。
その放送は、聞き取りにくく、おしんたちには何がなんだかわからなかったが、日本が戦争に敗れ、降伏したことだけは理解できた。
しかし、終戦とは具体的にどういうことなのか、おしんにも誰にも見当もつかず、ただただ、ぼう然とするばかりであった。
218話
突然の終戦は、前日まで空襲におびえ、食糧難に苦しみながらも、日本の勝利を疑わなかった日本の国民には、大変なショックであった。
と同時に、敗戦国の運命がどうなるのかもわからず、急に生きる目的を失った人々は、深い虚脱感に襲われていた。
おしんも竜三も例外ではなかった。
しかし、どんな時が来ようと、生きてだけはいかなければと、おしんは自分で自分の気持ちを励ましていた。
219話
おしんの夫・竜三が戦争に協力した責任をとって、自ら、生命を絶った。
終戦の翌日のことだった。おしんがその知らせを受け、竜三と悲しみの対面をしたのは、それから2日後であった。
おしんは竜三が死んだという知らせを聞く前に、竜三からの遺書を読んでいた。
知らせを聞いたおしんは、「やっぱり」という気持ちになった。
竜三の死に顔が安らかだったことだけが、おしんにはせめてもの慰めだった。
220話
昭和20年8月末、田倉家におしんの次男・仁が帰ってきた。
おしんには、まったく突然の出来事だった。
「本当に仁なのか、夢ではないだろうか」とおしんはとても信じられなかった。
夫・竜三を失ったおしんにとって、仁が帰って来てくれたことは心強く、長男・雄を待つ希望にもなった。
しかも仁は、帰った翌日から、リュックサックを背負い、買い出しに出かける頼もしさだった。
221話
おしんは、次男・仁の成長ぶりが頼もしいよりも、どこかおそろしかった。
おしんと竜三の反対を押しきり、少年飛行兵を志願した一途さを思い出したのである。
学校が再開されたら、仁を勉学に打ちこませようと、おしんは心に決めていた。
やがて娘の禎も帰ってきた。食事は貧しくても、子どもたちと囲める食卓を、おしんはしみじみ幸せだと思った。
222話
おしんが自分のものになったと信じていた家に、突然、前の持ち主が引き揚げてきて「この家を売った覚えはない」と居直り、おしんに立ち退きを迫った。
もちろん、おしんにはこの家を出てゆく気持ちなどなく、結局、ひとつ屋根の下で、2組の家族の不愉快な同居生活が始まった。
おしんたちは、一番奥の部屋に押しこめられ、台所も自由には使えない暮らしになってしまった。
おしんは借金を申し込むために山形へ向かった。
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223話
終戦後、おしんは、元の家主と同居していることが子どもたちの気持ちをゆがめていると思い、住み慣れた家を出る決心をした。
ある日、雄の戦友が訪ねてきて、おしんたちに雄がルソン島で餓死したことを告げた。
その夜、おしんは幼い日に俊作兄ちゃんからもらったハーモニカを、痛恨の想いを込めて吹いた。
それは、戦争に反対しなかった自分への恨みであり、竜三と雄への鎮魂歌であった。
224話
長男・雄の戦友が訪ねてきて、おしんたちに雄がルソン島で餓死したことを告げ、雄の死が確かなものになったので、おしんは初めて雄の葬式を出した。
終戦という日を境に、さまざまなものの価値観が天と地ほど変わったのは、おしんにもようやくのみこめていた。
そして、雄の戦死が疑う余地もない事実だとわかり、田倉家でも大きく何かが変わろうとしているのを、おしんは肌で感じていた。
225話
昭和20年8月15日の終戦から1年がたった。
その1年の間に、おしんの人生は大きく変わった。
夫・竜三の自決、長男の雄の戦死、そのうえ、住み慣れた家からも出て行かざるをえず、おしんは、厳しい戦後を丸裸で生きていかなければならなくなっていた。
そして、どん底の気持ちに追い打ちをかけるように、自分の娘のつもりで育ててきた初子もおしんのもとを去って行った。
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再起編(第226回~第261回)
226話
昭和20年8月15日の終戦を境に、おしんの運命は、大きく変わった。
夫・竜三が戦争に協力した責任をとって自らの生命を絶ってしまい、長男・雄は戦死した。
家と土地も、引き揚げてきた前の持ち主に取りあげられ、追い出されてしまった。
昔、世話になった網元のひさと再会したのは、そんなときであった。
それから4年の歳月が流れ、昭和25年の春、おしんもいつしか50歳になっていた。
227話
昭和25年、おしんは店を開くことにふみきり、21才になった仁と希望の協力で、やっと開店にまでこぎつけていた。
しかし、新しい店を軌道にのせる苦労は、並大抵ではない。
何度も店を出した経験のあるおしんには、骨身にしみていた。
しかも今度の店は、大学へも行かず、おしんを助けてきた仁と希望の将来がかかっているのである。
おしんには、なんとしても失敗は許されなかった。
228話
初子の消息は、初子が雄の戦死を知った直後に田倉家を出てから4年の間、わからなかった。
ある日、東京でおしんが世話になった健から、初子を見つけたという速達が届いた。
おしんは、とるものもとりあえず、上京した。
始めたばかりの店を、仁と希望に任せるのは心もとなかったが、初子の消息を一日も早く知りたい一念のおしんであった。
229話
健は、なぜか初子について、かたくなに口をつぐんでいた。それが、おしんには不安であった。
黙々と健について歩きながら、おしんの脳裏に、長男・雄の死を知ったとき、泣き崩れた初子の姿が、鮮明によみがえっていた。
もうすぐ初子に会えると思うと、うれしさより不安のほうが大きかった。
健に連れられて行ったのは、郊外のケバケバしい繁華街であった。
230話
4年間行方のわからなかった初子の消息を、健から知らされたおしんは、開店まもない店を、仁と希望にまかせて上京し、やっと初子を連れ戻すことができた。
東京から初子を連れて帰ったおしんを待っていたのは、問屋に商品を引き揚げられてガランとした店であった。
おしんは、これを機会に、あらためて魚と野菜に絞った商売をしようと考えた。
231話
おしんは、初子が田倉の家へ帰ってきて店を手伝ってくれるようになって、やっと家族が肩をよせあって生きていけると安心した。
また、店を大きくしてゆく希望も張り合いもできた。
しかし、初子が落ちついてくれた安どもつかの間、今度は、初子が帰ってきたのを機会に、希望が家を出て、陶工の修行に窯元へ住みこみで弟子入りしたいと言い出した。
おしんは反対だった。
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2020年1月放送分(232話~254話)
232話
昭和25年夏。5年間の苦労の末、ようやく開店できた店は徐々に客が増え始めた。
消息がわからなかった初子も4年ぶりに連れ戻すことができ、田倉家に久しぶりに家族がそろった。
しかし、おしんの安どもつかの間、希望が陶工になりたいと窯元に弟子入りし、おしんのもとを去った。
仁も田舎町の魚屋で一生を終わりたくないと言い出し、商売のしかたについておしんと議論になる。
233話
田舎町の魚屋で一生を終わりたくないと、仁はある日突然、家を出て東京へ向かった。
234話
仁が、東京へ出てから3か月。
おしんは毎日仕事に精を出し、売り上げは順調に伸びていた。
禎が、朝から晩まで働きづめのおしんと初子のことを心配するほどの働きぶりだった。
浩太からは「おしんさんの果たせなかった夢を、これからの人生に賭けてみるんだ」と励まされた。
しかし、仁からの手紙がめったに来なくなり、おしんの胸に暗い不安がわだかまっていた。
235話
おしんが店を出して半年たった昭和26年の新春。
住み込みで陶工の修行中の希望が、正月休みで帰ってきた。
しかし、東京の百貨店へ就職した仁は、自分から仕事を辞めて行方がわからなくなったままで、伊勢へは帰ってこなかった。
元日、田倉家へ、戦死した雄の戦友・川村がやって来た。
見違えるように立派になった川村の姿を見て、おしんも初子もただ驚くばかりだった。
236話
東京の百貨店を辞めたという仁の消息は、昭和26年の春になってもわからなかった。
おしんの商売は、おしんと初子の努力で少しずつ伸びてはいたが、仁のことが、田倉家に暗い影を落としていた。
そんなある日、仁にひどく迷惑をかけられているという女性が、店にやってきて、おしんに仁への不満をぶつけた。
おしんは、その女性を追い返したが、初子は名古屋まで仁に会いに行った。
237話
行方がわからなかった仁が、半年ぶりに帰宅した。
どういう暮らしをしてきたのか、おしんには、想像もつかなかったが、やつれながらも厳しい表情になった仁の顔つきに、おしんはひとつの山をのりこえてきた仁の「魂の遍歴」をみた気がしていた。
だから、何も聞くまいとおしんは思った。
「もう一度、仁とやり直せるかもしれない、いや、やり直したい」と、おしんの胸にまた明るい希望が生まれていた。
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238話
昭和26年、戦死したおしんの長男・雄の戦友であった川村が不慮の死をとげた。
川村が雄の代わりにと、おしんに譲った土地は、川村の形見としておしんに遺され、それがおしんと仁にとって、新しい商売の足がかりになったのである。
そして、4年の歳月が流れた。
おしんと初子と希望の3人は、雄の命日の墓参りに来ていたが、そこに仁の姿はなかった。
239話
昭和30年、世の中は急速に変貌していた。
田倉商店も変わろうとしていた。
おしんは、仁の商売熱心なところを評価する一方で、簡単に利益をあげることばかり考えすぎるとも感じていた。
また、おしんの家族は、仁が年頃となり、新しい問題を抱え始めていたのである。
ある晩、初子は、夜中に目を覚ましたときに、仁が百合の部屋に入っていくのを目撃してしまった。
240話
おしんが駅前に店を移してから4年、おしんの努力で田倉商店は生鮮食料品の店として、ようやく安定し始めていた。
ただ商売一筋に走り続けてきたおしんには、年頃になった息子の仁にお見合いの話などが持ちこまれることはあっても、結婚などまだ遠いことのような気がしていた。
それだけに、初子から聞かされた仁と百合の関係は、おしんにとって、大きなショックであった。
241話
おしんは、仁の嫁としてあらためて百合の人柄を見直していた。
そして、百合がやはり自分と同じ世界の女だったと感じ、心からいとおしく思った。
しかし、おしんが百合を仁の嫁にしたいと考えていたとき、仁は別の女性との結婚話を進めていた。
仁には、仁の思惑があったのである。
仁は、母のおしんにも理由を言わず突然上京し、5日ほどしてから帰宅した。
昭和31年晩春のことであった。
242話
おしんも初子も、仁は奉公人の百合を愛しているとばかり思っていたのに、結婚を約束した娘がいると聞いて、耳を疑った。
しかも、その娘の父親が、田倉商店をセルフサービス方式に改造する費用を出してくれると言う。
おしんには、信じられないようなことばかりであった。
そして、仁は百合に「ほかに結婚したい女性がいる。だけど、百合が許せないなら、あきらめる」と話すのだった。
243話
戦後10年、いくら時代が激しく変わったと言っても、おしんは、百合に対する仁の仕打ちが許せなかった。
たとえ、親子の縁を切っても、百合はおしんの手もとへおいて面倒をみることが、百合への償いだとおしんは心を決めていた。
しかし、翌朝、百合が田倉の家を出てしまう。
おしんは、「百合が家を出たのは、仁に責任がある」と激しく責める一方で、自分の子育てがまずかったと反省もしていた。
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244話
息子の仁が百合の気持ちを踏みにじって、おしんの見も知らぬ女性と結婚しようとしているのが、おしんにはどうしても許せず、仁の非情さがやりきれなかった。
仁が、おしんの期待を裏切るような生き方をしているのを知ったことは、おしんにとって大きなショックであった。
どこでどう育て方を間違えたのだろうか。
おしんは仁に「その女と一緒になりたいなら、この家を出て結婚しなさい」と言った。
245話
昭和30年当時の日本で、セルフサービス方式を採用する店は、大きな賭けであった。
しかし、おしんもただの母親であった。
夢を託して思いつめている仁の情熱があわれで、仁の意見に押し切られることになった。
仁の結婚相手の道子と、父親があいさつに訪ねてきたが、自分の腕一本で生きてきたおしんにとって、道子の父親のずうずうしい態度は、おしんの城へ土足で踏み込んでくるような気がした。
246話
仁の結婚相手、川部道子が父親の仙造とともに田倉家を訪れた。
おしんは初めて道子に会った。
しかし、初対面から、おしんは、道子にも仙造にもなじめなかった。
自分の腕一本で生きてきたおしんにとって、道子の父親の態度は、おしんの城へ土足で踏み込んでくるような気がしたのである。
一方、道子と仙造を頼らずにどうやって改装資金を工面するのか、初子は不安でならなかった。
247話
おしんは、浩太に保証人になってもらい、銀行から資金を借りて、自力でセルフサービス方式の店に切りかえることにした。
仁には、事後報告だったので、仁は、おしんと道子の父親の板ばさみになって困っていた。
初子は、母さんらしいやり方だと、おしんの意地がよくわかった。
しかし、初子は、仁と道子の結婚で起こるだろうトラブルを思うと、気が重かった。
248話
駅前の魚と野菜の店も繁盛し、これで食べていけると満足していたおしんだったが、まだ当時、未知数で大きな賭けであったセルフサービス方式の店に切りかえる決意をしたのは、女の意地であった。
仁の嫁になる道子の父親に対するおしんの意地であった。
やがて、増築の起工式がささやかに行われることになった。
のちに神武景気と言われた、日本経済の高度成長が始まる昭和30年初秋のことであった。
249話
起工式も終わり、田倉商店の増築工事が始められた。
セルフサービス方式に踏み切ったおしんは、今までどおり古い店で魚と野菜の商いを続けながら、新しい商売の勉強に夢中であった。
しかし、仁の結婚がからんだ新しい店の出発には、さまざまな問題があり、おしんを悩ませた。
それでも、新しい店への期待と興味とが日増しに大きくなり、おしんは、若いころのしたたかさをとり戻していた。
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250話
おしんは、店を大きくして、セルフサービス方式に切りかえ、新しい出発をすることを決心し、自力でその計画を着々と進めていた。
もちろん、セルフサービス方式の店が成功するかどうか、昭和30年当時の日本にはまだ前例が少なかっただけに、大きな賭けであったし、不安も大きかった。
しかし、新しい店よりも、もっとやっかいなことがおしんを悩ませていた。
それは、息子の仁の結婚であった。
251話
仁夫婦と同居することにはなったものの、嫁の道子とこれからひとつ屋根の下に暮らし、強引な道子の父親ともつき合っていかなければならないのかと思うと、おしんの気持ちは、晴れなかった。
ひとりの他人が家に入ることのわずらわしさが、おしんにはやりきれなかったのである。
それでも、紆余曲折の末、昭和30年12月、ようやく仁と道子の結婚式が行われることになった。
252話
おしんと道子の仲は、同居が始まろうとしているその日から険悪だった。
二人の関係が、田倉家の前途に暗い影を落としているようにみえた。
おしんは、道子に、家の掃除、洗濯、炊事をまかせることと、決まった生活費を渡して、そのなかでやりくりしてほしいことの二点を伝えた。
しかし、1日のスケジュールを教えてもらった道子は、あまりの忙しさに驚き、ぼう然とするばかりだった。
253話
昭和30年暮れ、「同居する」というおしんの提示した条件をのんで、仁と結婚した道子は、新婚旅行から帰って半日もたたないうち、仁にも黙って実家へ帰ってしまった。
今まで縁もゆかりもなかったひとりの娘を家族として迎えることがこんなにも大変なのかと、おしんは情けなかった。
そんな道子にふりまわされて、オロオロしている仁が、おしんには悔しく、腹立たしくもあった。
254話
おしんは、道子が田倉の家にようやくおさまって、肩の荷をおろした思いであった。
しかし、おしんは、道子にはもう嫁として期待することをやめた。
22歳の道子に、おしんが思う通りの嫁になれというのが無理だったのだ、と悟ったからである。
年末の忙しさも終わり、大みそかの店を閉めると、仁と道子はさっさとスキーに出かけ、田倉家はおしんと初子だけの元日を迎えた。
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2020年2月放送分(255話~279話)
255話
おしんは、希望が店で働いてほしいと考えていた。
新しい店を始めるのに、仁だけでは頼りないと感じ、希望のような根がしっかりした人間に、仁と力を合わせて店をやってほしかったのだ。
昭和31年2月、田倉商店には、陳列棚やショーケースなどが運びこまれ始めた。
それでもまだ、どの程度の商品をどういうふうに扱うかで、おしんと仁の意見が合わず、母子で口げんかの絶えない日が続いた。
256話
時あたかも、高度経済成長の時代が始まろうとする頃であった。
おしんが店をセルフサービス方式に切りかえたのも、時代の空気を肌で感じていたからである。
しかし、手探りの中での新しい店のオープンは、息子の仁との意見の相違もあり、なかなか容易なことではなかった。
そんな昭和31年の春、陶工の修業をしている息子の希望と百合の結婚式が行われることになった。
257話
店の増築も完成し、田倉商店に2台の金銭登録機(レジ)が運び込まれた。
レジを担当することになっているおしんと初子のレジ打ちの練習が始まり、商品の搬入も行われた。
おしんは、道子にも店のことを理解しておいてほしいと言ったが、道子にはその気がないようであった。
こうして、田倉商店は、いよいよスタートを切った。
おしんの命運を賭けた出発の第一歩だった。
258話
おしんと道子の対立は、日増しに激しくなった。
子どもの頃から貧しさが骨身にしみていたおしんは、貧乏から逃れることが何よりも大切だった。
食事の献立をめぐって道子と口論になった日、仁が、もっと生活費をたくさん渡してほしいと言ったことが、おしんは腹立たしくてならなかった。
幸せを金でしか買えない時代になったという思いが、店のオープンを前に、おしんに新たな決意をさせた。
259話
新しい店のオープンを2日後にひかえて、道子が妊娠していることが分かった。
みんなが忙しいさ中、道子の母が名古屋からやって来て、道子を実家に連れて帰ることになった。
おしんの人生では、つわりなど病気のうちに入らないという考えで常にやってきた。
一方、道子からすれば、この妊娠を口実に、「田倉家の嫁としての地獄からようやくぬけ出せる」といった感覚であった。
260話
昭和31年3月。
田倉商店は、当時まだ少なかったセルフサービス方式の店としてオープンにこぎつけた。
成功するかどうか予想もつかない賭けであったが、とうとうここまで来たという感慨が、おしんの胸を熱くしていた。
開店初日は、大勢の客でにぎわい、順調なスタートを切ることができた。
その一方で、安売りに対して商店街から反発もあったが、おしんは、誰にも頼らず、田倉の商売をしようと決意するのだった。
261話
田倉商店の安売りに対して近隣の商店街から反発されたことで、むしろ、おしんは腹を決めた。
誰にも頼らず田倉の商売をしようという、おしんの意地だった。
田倉商店の開店記念セールの3日間は、好評のうちに終わった。
おしんは、翌日からの一か月間も、開店記念セールと同じ値段で辛抱しようと提案した。
電車やバスで遠くからわざわざ買いに来てくれたお客さんに、お得意さまになってほしいという思いが強かった。
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完結編(第262回~第297回)
262話
おしんが新しくオープンしたセルフサービス方式の店は、市価より安い商品が人気を呼んで、売り上げだけは好調なすべり出しであった。
しかし、安売りだけに利益は薄く、銀行の借金の返済を思うと、おしんは将来が不安で頭を痛めていた。
そんなとき、息子の仁が思いがけないことを言い出した。
店を手伝ってもらうために呼び寄せた友人の辰則と、妹の禎を結婚させたいというのである。
263話
仁は、田倉家のために、妹の禎と、田倉の店を手伝っている辰則を結婚させようと考えたのだが、禎が名古屋の大学に戻ったことで話は立ち消えになった。
悩みの種が消えて、おしんはホッとしていた。
しかし、スタートしたばかりの新しい店は、銀行の借金を返すのが精いっぱいで、禎の学費や下宿代を工面するのも難しい状態であった。
おしんは、名古屋に戻った禎から連絡がないことを心配していた。
264話
突然、名古屋から帰ってきた禎は、大学をやめると言ったきり店のレジへ入り、おしんを避けているようだった。
おしんには、何があったのかさっぱり見当もつかず、不安な思いで仕事が終わる時間を待った。
その夜、禎は、おしんと仁に、大学をやめて一生田倉の店で働きたいと切り出した。
新しい店のオープンのとき店を手伝った経験から、働くことのすばらしさを実感したというのである。
265話
禎は、思いきって辰則に、自分と結婚する意志があるかどうか聞いてみた。
おしんが辰則との結婚に反対なので、おしんを通して結婚を申し込むのは無理だと思い、自分で直接辰則に話したのである。
しかし、辰則はとりあってくれず、急に禎に冷たくなった。
禎は、辰則が結婚の申し込みを喜んでくれると思っていただけに、意外な結果に失望を隠せない。
しかも、その夜、とんでもないことが持ち上がったのである。
266話
禎は、辰則に、店のオープン準備のときに一緒に働き、夢中で仕事に打ち込む姿をすばらしいと思ったから結婚を申し込んだのだと伝えた。
その結果、禎と辰則の誤解が解けて、ふたりは晴れて結婚することになった。
一方、妊娠5か月を過ぎて、実家から田倉へ帰ってきた仁の嫁・道子が、ひと月もたたないうちに、また実家へ戻ってしまった。
おしんは、腹が立つよりも、ただあきれるばかりでであった。
267話
おしんは、仙造が提案した初子の縁談を断った。
そのせいで、仙造も仁も機嫌が悪かったが、おしんは無視することにした。
おしんは、嫁という他人が家に入ることで起きる家族関係の難しさとわずらわしさを、いやというほど思い知らされていた。
一方、妊娠中の体では十分に大家族の面倒をみることはできないと考えて実家へ帰っていた嫁の道子が、いよいよ臨月をむかえた。
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268話
昭和42年秋、おしんは67歳になり、田倉商店は従業員20名を使う大店舗になっていた。
仁や辰則はチェーン店を出すようおしんを説得していたが、堅実さ第一のおしんは、他に店を出すことに反対だった。
しかし、2人の説得におしんはついに根負けし、希望に窯を持たせてやることに対して文句を言わないことを条件に、チェーン店を新設することを認めたのだった。
269話
田倉商店は、従業員20名の大店舗になった。
しかし、おしんは、他に店を出すことに反対で、仁や辰則はチェーン店を出すように、おしんを説得していた。
ある日、展覧会で、希望の作品が特選を受賞したという知らせが入った。
おしんは、貧しさに耐えて、ろくろを回し続けてきた希望と、希望を支える百合を長年みてきただけに、この受賞が何よりもうれしかった。
270話
希望の作品が展覧会で特選を受賞したのをきっかけに、おしんはなんとか希望を陶芸家として独立させたいと考えた。
40年近い歳月をひとりで背負ってきた恩人・加代への約束を、ようやく果たせる時が来たのである。
おしんは感慨無量であった。これでいつ死んでもいい。
無心にろくろを回している希望をみつめながら、胸の中でつぶやいているおしんであった。
271話
ある日、包丁を持った女が、「社長に会わせろ」と店で大騒ぎした。
女は「田倉の社長が私をだまして、家や土地を奪った」と訴えた。
実際のところは合法的だったとはいえ、仁が独断で行ったことだった。
おしんは、女の前で仁の頬を殴りつけ平謝りした。
その女は、かつておしんがお世話になった人のひとり娘だった。
おしんは、店の経営方針について、仁とは考え方が決定的に違うことを痛感していた。
272話
仁は、おしんの反対で、チェーン店の新設が遅れたことをあせっていた。
そこで、田倉の2号店3号店の建設は、おしんの許可を待って同時に着手することにした。
このチェーン展開は、10年かかって、おしんが築きあげたすべての財産を投入しての賭けであり、田倉にとって、2度目の大きな転機でもあった。
そして、時を同じくして、希望の窯と住居の工事も進められていた。
273話
希望の窯と作業場が出来上がり、新居も完成した。おしんと初子は、久しぶりに希望と百合を訪ねた。
ふたりの幸せそうな顔を見て、おしんと初子は無理をしてでも建てたかいがあったと喜びあうのだった。
ところが、帰宅したふたりを待っていたのは、意外な知らせであった。
さっきまで一緒に食事をしていた百合が交通事故で入院したというのである。
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274話
昭和42年秋、希望の妻・百合が交通事故で他界した。
百合が楽しみにしていた新築の家へ引っ越す前夜の出来事だった。
4才の息子・圭が残され、母を失った幼い圭の姿が葬儀の参列者の涙をさそった。
百合の死をきっかけに、昔の仁と百合の関係が仁の妻・道子に知られてしまい、道子は子どもを連れて実家へ帰ってしまった。
おしんには二重のショックだった。
275話
百合の死をきっかけに、昔の仁と百合の関係を知ってしまった仁の妻・道子は、3人の子どもたちを連れて名古屋の実家へ帰ってしまった。
おしんにとっては、百合の死に加えて二重のショックであった。
仁には「これは夫婦の問題だから」と言われたが、おしんはやはり放っておくわけにはいかなかった。
一体いつまで母親の苦労がついてまわるのか、おしんには気の重い問題であった。
276話
おしんは、道子の実家に謝りに行ったが、道子の母親からひどい言葉を浴びせられる。
しかも仁からも「余計なことをしてくれた」と言われ、こんなふうに仁を育ててしまった自分自身の責任をつくづくと思うのだった。
仁が、人一倍ものに執着するようになったのは、ひょっとすると、貧しい中、必死にはいあがろうとする自分の姿を見て育ったせいかも知れない。
おしんの胸に苦い思いがあふれた。
277話
希望の工房の新築祝いは、師匠や先輩が集まってくれて、大変にぎやかなものとなった。
みんなが帰った後、浩太が残り、おしんとともに、希望を産んですぐに亡くなった希望の母親・加代の思い出をしみじみと語るのだった。
それからすぐ、スーパー田倉にとっては、かき入れ時の歳末大売り出しが始まったが、道子は、とうとう一度も店へは姿をみせなかった。
278話
仁と妻・道子の不仲は、さすがのおしんにもどうすることもできなかった。
おしんは、母親として仁の力になってやることができず、暗い気持ちで見守っているしかなかった。
そして、おしんには、もう一つ心を痛めていることがあった。
希望と圭の将来についてである。
おしんは、希望に「初子と一緒になる気持ちがないか」と確かめてみることにした。
279話
おしんは、希望と圭の将来について、心を痛めていた。
さんざん考えた末に、おしんは、希望に「初子と一緒になる気持ちがないか」と聞いてみた。
しかし、長年姉と弟のように暮らしてきた初子と希望が結婚することは、お互い到底考えられないことだった。
初子のためを思ってしたことが、逆に初子を傷つけてしまったのではないかと、おしんは激しく後悔するのだった。
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2020年3月放送分(280話~297話)
280話
おしんの不安をよそに、次から次へとチェーン店を増やしてゆく仁の強引な商法は時流にのって成功し、スーパー「たのくら」は、短期間に急速な伸びをみせていた。
昭和43年秋には、「たのくら」6号店をオープンし、何もかもが順調に進んでいるかにみえた。
しかし、思いがけないところに、落とし穴が口を開けて待っていた。
仁の長男で、中学2年の剛が盛り場で補導されてしまったのである。
281話
仁の長男で、中学2年の剛が盛り場で補導される事件があり、仁と道子は相談のうえ、おしんと同居したいと申し出た。
おしんにはいまさら、仁夫婦と一緒に暮らす気はなかったので、いったんは断った。
しかし、おしんは、将来、初子が仁や道子の世話にならなくてはならないのがふびんに思え、初子の将来を考え、初子の独立を条件に、仁夫婦と同居することにした。
282話
手芸の店を始めたいという初子の考えを、おしんは、いかにも初子らしい商売だとほほえましく聞いた。
希望は希望らしく、初子は初子らしく、それぞれが生きていく道をみつけてくれたことが、おしんの心をなごませていた。
このようにして田倉家も変わっていくのだと思うと、おしんは感慨無量だった。
おしんにとっても初子にとっても、これまでの人生との別れであった。
283話
昭和43年暮れ、おしんは、初子と2人きりの暮らしに別れを告げ、新しい家へ移り仁夫婦と同居することになった。
おしんにとっても初子にとっても、新しい人生への出発であった。
初子は手芸の店を開いて独立した。
おしんは、あれほど同居を嫌がっていた道子が、しゅうとめと暮らす苦労を覚悟で、同居しようと言いだした気持ちを尊重し、何事も道子のやり方に従おうと決めていた。
284話
おしんが、仁夫婦や孫たちとの同居にふみきって間もなく、思いがけない来客があった。
山形の兄嫁・とらである。
おしんは、さんざんとらを恨み続けてきたのに、今のとらの孤独でみじめな姿があわれでならなかった。
それは、同じ世代を生きてきた女同士のいたわりでもあった。
とらが、いつしか自分と同じしゅうとめの立場になっていることに、過ぎ去った年月の重さをあらためて感じるおしんであった。
285話
昭和43年、スーパー「たのくら」は、6号店を出した。
暮れには、仁はおしんと同居するための家を新築して、絶頂期であった。
自信あふれる仁の姿に、おしんは、一抹の不安を抱いていた。
しかし、おしんの危惧をよそに、仁の強気の経営は成功し、昭和57年の夏には、三重県下に16店舗を有する中堅企業にまで成長していた。
おしんは81歳の誕生日を迎え、盛大に誕生祝いの会が開かれた。
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286話
誕生日のお祝いの席で、おしんは初めて、仁からスーパー「たのくら」17号店を、浩太が住む町に作ると聞かされた。
おしんは、浩太の食料品店と競合することになって、浩太に迷惑をかけると猛反対をした。
60年以上のつきあいがあり、大きな恩がある浩太を裏切ることはできないと主張するおしんに対して、仁は「恩は恩、商売は商売」だと反論。
2人の間に大きな対立が生まれることになった。
287話
スーパー「たのくら」の17号店を、浩太が住む町に作ると聞かされたおしんは、浩太の食料品店に迷惑をかけると猛反対したが、仁と辰則は聞き入れなかった。
新聞に17号店出店の記事が出た翌日、おしんは浩太を訪ねた。
謝ってもどうにもならないことは重々承知していたが、おしんは浩太への申し訳なさと自身のやりきれない気持ちを伝えるしかなかったのである。
288話
スーパー「たのくら」17号店のオープンを目前に控えて、おしんは、浩太から突然電話を受けた。
食料品店を継いだ浩太の息子が、店の土地を大手のスーパーに売る決断をしたというのだ。
これによって、小さな町に2つもスーパーができることになり、大手のスーパー相手では「たのくら」が競争に負けるのは明らかであった。
心配した浩太は、早めに何らかの手を打った方がいいとおしんに伝えた。
289話
スーパー「たのくら」17号店オープンの日の朝、おしんは、誰にも知らせず家を出た。
おしんの真意を知る者は誰ひとりいなかったが、おしんは、ひとり、人生を振り返る旅に出たのである。
山形・東京・佐賀・伊勢と、自分の人生の場面場面を思い出しながら、自分の生き方について考える旅だった。
家を出てから一か月あまり、おしんが旅から帰ると、田倉家は、大手のスーパー進出問題で大きく揺れ動いていた。
290話
田倉家は、大手スーパーの進出問題で、大きく揺れ動いていた。
仁は、あきらめないで、わずかな希望をおしんに託していた。
おしんと浩太の話し合いで、この危機を乗りこえられると信じていた。
おしんは浩太に会ったが、仁の期待をよそに、「今の田倉は分不相応に大きくなりすぎたので、これでつまずいても、仁にはいい薬だ。一度、どん底を味わったほうがいい」と信念を変えなかった。
291話
おしんは、浩太に「大手のスーパーに土地を売っていただいてかまいません」とあらためて伝えた。
おしんの決断は、スーパー「たのくら」全体の経営にとって命とりになり、仁を絶望させることを、おしんはわかっていた。
おしんにとって、田倉家全体を巻き込む、とても大きな決断であった。
そして、ついに大手のスーパーが、「たのくら」17号店と同じ町の駅前に、盛大にオープンした。
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292話
おしんと仁がスーパー「たのくら」を開いて30年がたった。
小規模ながらも県内各地に16店舗を展開し、昭和58年春には、百貨店規模の17号店をオープンすることができた。
しかし、大手スーパーが17号店と同じ町に進出したのを受けて、すっかり客足が落ちてしまう。
今まで築きあげてきたものをすべて注ぎ込んだ17号店だっただけに、田倉の打撃は大きく、おしんは「たのくら」倒産の覚悟を決めるのだった。
293話
スーパー「たのくら」の危機にともなって、田倉の家族までが崩壊しようとしていた。
道子が離婚を切り出し、仁がそれを受け入れたのである。
おしんは、ふたりの離婚を誰よりも心配して、はいつくばってでも道子を引き止めろと仁に迫る。
おしんにとって、道子が決して気に入った嫁ではなかったことを誰よりもよく知っている仁は、そんなおしんの強い思いが心底意外であった。
294話
道子が離婚を決意し、仁はそれをいったんは受け入れた。
ふたりの離婚について誰よりも心配したのは、おしんであった。
はいつくばってでも道子を引き止めろとおしんに言われた仁は、おしんの心中を察して意地やメンツを捨て、「もう一度やり直したい」と自分の素直な気持ちを道子にぶつけた。
その結果、道子も思い直し、離婚の危機をぎりぎりのところで回避することができたのだった。
295話
大手スーパーの進出で客足の落ちたスーパー「たのくら」17号店の不振は続き、田倉そのものの信用にも悪影響が出始めていた。
県内の他の店舗も軒並みに業績が落ち込み始め、17号店開店に要した莫大な経費のために受けた融資の金利さえ支払いが滞るようになっていた。
結局、仁の長年の夢と、田倉のすべてを賭けてオープンした17号店の行き詰まりは、スーパー「たのくら」全体の命とりになったのである。
296話
おしんに頼まれたからとはいえ、自分が土地を売ったことで、「たのくら」を結果的に追い詰めることになった浩太は「妙に後味が悪い」と話す。
おしんは、「どうかもうご心配くださいませんように」と笑って頭を下げた。
同じ時代を生き、お互いに愛し合いながら結ばれず、別々の道を歩いてきたおしんと浩太は、いわば「愛」を超えた「同志」だった。
浩太は、おしんの不運に胸をえぐられる思いだった。
297話(最終回)
おしんが住みなれた家を出て、仁たち家族と別れる日のこと。突然、浩太がやってきた。
浩太は「たのくら」が生き残れるように、不振の17号店の買収の話を持ち込んでくれたのだ。
こうして浩太の尽力で17号店が大手スーパーに買い取られることになり、その資金で、田倉は他の16店を立て直すことができることになった。
おしんの苦労と波乱に満ちた人生に、また新たな1ページが加わったのである。
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