木村拓哉&二宮和也主演の映画『検察側の罪人』の原作である雫井脩介の小説ネタバレあらすじと感想についてまとめています。
老夫婦殺害事件の真犯人は本当に松倉なのか?最上がとった驚くべき行動の全貌と、23年前の未解決事件の真相、タイトル「検察側の罪人」の意味など、気になる疑問について解説&考察していきます。
ラストまでネタバレしていますので、結末を知りたくない方はご注意ください。
目次
登場人物&俳優キャスト
2018年8月24日公開
上映時間123分
監督:原田眞人
原作:雫井脩介「検察側の罪人」
■ 最上 毅(木村拓哉)
刑事部きってのエリート検事。今回担当する事件の被疑者として過去の未解決事件の重要参考人・松倉の名前が上がってきたことに激しく動揺する。
■ 沖野 啓一郎(二宮和也)
入庁5年目の若手検事。研修担当だった最上の言葉に感銘を受け、最上に心酔していたが、事件の捜査が進むにつれ、最上に対して疑念を抱くようになる。
■ 橘 沙穂(吉高由里子)
沖野の事務官。入庁2年目。沖野とは公私共にパートナーとなる。実はある秘密を抱えている。
■ 最上 奈々子(山崎紘菜)
最上の義理の娘。
■ 松倉 重生(酒向芳)
時効となった過去の未解決事件の重要参考人だった男。
■ 弓岡 嗣郎(大倉孝二)
捜査過程で新たに浮上してきた男。居酒屋で酔って犯行をほのめかすような自慢話をしていた。
■ 千鳥(音尾琢真)
暴力団員。殺害された老夫婦の息子。
■ 青戸 公成 (谷田歩)
警視庁捜査一課警部。老夫婦殺人事件の担当刑事。
■ 小田島 誠司(八嶋智人)
国選弁護人として松倉の弁護を担当。
■ 白川 雄馬(山崎努)
人権派の大物弁護士。小田島を後援する形で、松倉の弁護団を結成する。
■ 丹野 和樹(平岳大)
衆議院議員。最上の大学時代からの親友。義父である、政界の大物議員・高島進の秘書。
■ 前川 直之(大場泰正)
弁護士。最上・丹野の旧友。町の弁護士(マチ弁)。
■ 高島 進(矢島健一)
衆議院議員。政界・財界に多大な影響力を持つ大物代議士。
■ 諏訪部 利成(松重豊)
闇社会のブローカー。
■ 運び屋の女(芦名星)
諏訪部の指示で動く、謎の女。
■ 桜子(キムラ緑子)
もがみが法学部同期との酒宴で使っている割烹の女将。
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『検察側の罪人』簡単なあらすじ
※ここから『検察側の罪人』原作のネタバレ・犯人の正体・結末を含みます。ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
沖野は、司法修習の担当教官だった最上に大きな感銘を受け、弁護士志望だったが検事を志すようになる。
5年後、最上と同じ東京地検の刑事部に配属された沖田は、念願だった最上との仕事に意気揚々と取り組む。最上もまた、この若い検事に大いに期待を寄せていた。
そんな時、蒲田で老夫婦が殺害される事件が起きた。
当初、最上は沖野に事件を担当させるつもりだったが、容疑者リストの中に上がってきた名前を見て愕然とする。
松倉重生。
それは23年前、最上が大学時代を過ごした寮の管理人・久住夫妻の一人娘・由季が、暴行された末に首を絞めて殺された事件で容疑者だった男だ。だが松倉は警察の追求をのらりくらりとかわし犯行を自供せず、そして決め手となる証拠も上がらず、ついに事件は時効を迎えていた。
当時わずか中学2年生だった由季の未来を残忍な手口で奪い、法によって裁かれることなく罪を逃れた松倉に、最上は激しい憤りを感じていた。
最上は今度こそ松倉を死刑にすべく、強引に捜査をおし進めるも、新たな容疑者・弓岡嗣郎が浮上してしまう。今回の老夫婦殺害事件の犯人は、おそらく松倉ではない。
そう悟った最上は、検事として、驚くべき行動に出る。
一方、取り調べを担当していた沖野は、否認を続ける松倉に、違和感を感じていた。松倉の冤罪を疑い始めた沖野は、検察を退職し、最上と対決する決意をする。
検事を辞めた沖野は、松倉の国選弁護人である小田島に接触。そして最上の犯行の全てを暴き出し、最上は逮捕され、松倉は釈放された。
拘置所に入れられてなお、検事として正義を見つめ続けていた最上に、沖野は自分は本当に正しかったのか苦悩する。
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『検察側の罪人』詳細ネタバレをラスト結末まで
起:老夫婦殺害事件と23年前の未解決事件の因縁
新60期司法修習生達を前に、最上は教官として最後の講義をしていた。
新60期は、司法制度改革によって始まった法科大学院を経ての新司法試験に合格した事実上の第1期だ。その中に、沖野もいた。
沖野は、法律という剣を手にこの日本を守るべく戦うべきだという最上の言葉に大きな感銘を受け、弁護士志望だったが検事を志すようになっていた。最上もまた、沖野の積極的な姿勢に大いに期待を寄せていた。
沖野は最後に最上に問う。法が万能でないとはどういうことなのか?最上は公訴時効の問題を例に上げ、自身は凶悪犯罪に時効はいらないと思っていると話す。
最上のその思いは、23年前のある未解決事件に由来していた。
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5年後の2012年。
沖田は最上と同じ東京地検の刑事部に配属された。早速最上に挨拶に向かった沖野は、最上の担当している本部事件が配点されることを希望する。
最上は、沖野に諏訪部という闇ブローカーの聴取の応援を頼む。 だが沖野は「物は売っても人は売らない」をポリシーとする諏訪部の口を割らせることはできず、参考人調書は取れずに終わってしまう。
その夜、最上は前川ら大学法学部の同期で、同じ法律研究会に所属して机に向かっていた仲間たちと酒を交わしていた。最上と共に北豊寮で学生時代を過ごした前川は、今は街弁として細々とした仕事を請け負っていた。
そこで、弁護士から衆議院議員へと転身した丹野が話題となる。丹野は大物政治家である高島進の娘婿となり、要職を任されていたが、高島には闇献金疑惑が浮上しており、丹野は事件の参考人として近く東京地検の取り調べを受ける予定となっていた。高島は丹野に罪をかぶせて保身を図ろうとしている節もある。
丹野が逮捕した際は弁護団を組んで支えてやろうという前川に、検事として最上は複雑な思いを抱いていた。
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最上の信頼を失ったのではないかと落ち込む沖野に、次のチャンスがめぐってきた。
蒲田で、都筑和直(74歳)と晃子(72歳)の老夫婦が、包丁で刺殺されるという事件が起きた。
夫婦の家から数十万単位の現金が行方不明になっており、また小型金庫から都筑和直が何人かの知人に貸し付けた金の十数枚の借用書が見つかっていた。
被害者二人の殺人事件、計画的犯行、そして金銭絡みということになれば、まず求刑での死刑は動かせない凶悪犯罪だ。最上は捜査の進行状況を報告する役目を沖野に与えた。沖野は引き締まるような思いで事件にあたる。
- 犯行が行われたのは4月16日夕方4時半頃。
- 犯人が金庫から自分の借用書を持ち去った?
- 犯行に使われた凶器の包丁の柄は犯人が持ち去っている。
- 被害者の庭の土と血液の付いたスリッパを履いて逃げた可能性。
事件の担当は、警視庁捜査一課の青戸警部だ。 青戸は、最上とは強力な信頼関係を築いていたが、まだ若い沖野のことは信頼しかねていた。
最上は捜査のウォッチングをしばらく沖野に任せていたが、借用書のリストを見た途端、顔色を変える。リストの中に松倉重生の名前があったからだ。
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23年前、最上が学生時代に世話になった北豊寮の管理人・久住夫妻の一人娘である由季が、何者かに殺された。由季は当時中学2年生だった。
殺害の5日前、犯人は根津神社で絵を描いている由季を見つけた。犯人は由季に接近して人気のない場所に引き込み、あげく、暴行を働いた。5日後、味を占めた犯人は由季の両親が外出している隙をつき、由季の部屋に侵入して再びの行為に及ぼうとした。しかし、スパナを持って抵抗する由季を相手に思うようなことはできず、ついには絞殺するに至っていた。
暴行されたことを誰にも話せず、自分で薬を買って傷ついた身体の手当てをし、悪夢の再来を恐れてスパナをお守りにしていた由季の姿を想像すると、最上はたまらない気持ちになる。
この事件の重要参考人として上がったのが、当時40歳の松倉だった。だが結局決め手となる証拠はなく、松倉の自供を得るしかない。松倉は警察の手の内の貧弱さを見透かしたように、のらりくらりと追及をかわし、警察はついに松倉を逮捕することはできなかった。
北豊寮の先輩住人だった水野は、由季の捜査が難航しているのを知り、政治記者から週刊誌の記者に転身していた。水野は執念深い取材で掴んだ捜査情報の詳細を取材メモとしてまとめ、最上や前川ら北豊寮の仲間に配っていた。
自宅に帰った最上は、そのメモを前に、水野が執念でつないだバトンが自分に渡されたと感じていた。
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承:最上の決意
借用書リストに名前があり、アリバイのない7人の事情聴取が開始された。聴取を担当するのは森崎警部補だ。
最上は取り調べ室のマジックミラー越しに、松倉と対面を果たす。そこには、23年前の根津の事件の捜査に関わった田名部も管理官として同席していた。田名部と最上の宿怨の引っ張られるように、捜査本部は松倉に狙いを定めていく。だが沖野は一人、その流れに疑問を感じていた。
松倉は事件当時、蒲田駅近くの中華屋「銀龍」でビールを飲んでいたとアリバイを話し、都筑宅を訪ねていないという。だが、松倉が自転車で被害者近くを自転車でうろついていたという目撃証言が出た。
翌日、松倉が働いているリサイクルショップで回収したリサイクル品からテレビや冷蔵庫を持ち帰っていることが判明。最上は松倉を横領で別件逮捕することを青戸に指導した。
現在大学生の娘の奈々子に対し、由季が生きられなかった年を生きていると無意識のうちに重ね合わせてしまうほど、根津の事件は最上に深い爪痕を残していた。
その日、森崎が精度の上がったDNA鑑定を盾に、ついに根津の事件で松倉の口を割らせた。由季を殺した犯人はやはり、松倉だったのだ。
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直後、松倉は業務上横領の容疑で逮捕された。最上自身強引に捜査を進めさせていることに不安は感じていた。だが、時効で裁けない犯罪者に相応の刑罰を負わせる、またとないチャンスに、最上は冷静な判断を失い始めていた。
そんな時、根津の事件の警察発表を見た前川から電話がかかってきた。前川から丹野が特捜に追い詰められ、かなり精神的に弱っていることを聞かされた最上は、丹野に電話をかけてみた。
特捜は本丸である高島を仕留めるため、躍起になっていた。最上は友人として、自分を守ることだけを考えるようアドバイスするが、丹野は高島に心酔しており、自らが盾となってでも高島を総理にしたいと考えていた。
一方で丹野は、自身が苦しい立場に置かれているにもかかわらず、由季のことに思いを馳せていた。犯人は逃げ延びたわけではなく、もっと大きなものに裁かれるのだと言う丹野に、最上は心を打たれる。
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翌日、松倉のアパートのガサ入れが行われた。最上は同行するが、凶器はおろか、証拠となるようなものは何一つ出てこない。
最上は事件当日4月16日の銀龍のレシートを発見して呆然とする。それは松倉の供述の一部の正当性を裏付けていた。
このままでは4時半犯行説が崩れ去ってしまう。焦った最上は、ひそかにそのレシートを自分のポケットに入れた。さらにダウンジャケットから羽毛を抜き取り、マッチ箱や飴の包み紙、爪楊枝や絆創膏、赤ペンで書き込みがされた競馬新聞まで持ち去る。
結局松倉のアパートからめぼしい証拠は発見されず、取り調べに懸けることとなった。検察の主任は沖野がやらせてほしいと志願し、最上自身がやるには無理があったため、最上はこれを了承した。
沖野は、まず根津の事件の調書を取った。次に、今回の事件について松倉の自供を引き出そうとするも、松倉は一貫して否認し続けていた。松倉と気持ちを通わせようとする沖野に対し、最上は甘すぎると手厳しく叱責する。
翌日から沖野は罵詈雑言の限りを浴びせ、何とか松倉を終わらせようと全力で取り調べに臨むも、松倉は一向に割れない。
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最上は都築家の庭先に、松倉のアパートから持ち出した証拠品を仕掛け、再捜索をさせた。だが仕掛けた証拠品は鑑識に発見されることなく終わってしまう。
そんな時、蒲田の駅前にある焼き鳥屋で、酔って犯行をほのめかすような自慢話をしていたという目撃証言が出た。自慢話をしていたのは、被害者の競馬仲間だった弓岡嗣郎だ。
都筑家の金庫に、弓岡の借用書は残っていなかった。だが、自慢話を聞かされたという矢口昌広の話を聞いた最上は、愕然とする。凶器の包丁の刃が折れているという事実は、報道されていない。それを知っているということは、犯人は弓岡だ。
最上は無力感に包まれた。その時、丹野の自殺がニュースで流れた。国会の会期中にもかかわらず、特捜が丹野の逮捕に踏み切ろうとしていた矢先だった。
彼が生きられなかった今この時を、自分は生きている。自分にしかできないこととは何か、考える最上。そして不意に思い浮かんだそのプランを、実行することを決意した。
松倉にやってもいない罪をかぶせるのだ。
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転:真犯人は本当に松倉重生か?最上との対決、検察を敵にした沖野
そう決断した最上は、近くの公衆電話から弓岡に連絡を取った。弓岡にしばらく行方をくらませるよう指示し、箱根に向かわせた。
丹野の通夜に出席したその足で、諏訪部に会うため、六本木のバーへと向かった。最上は諏訪部に拳銃を用立ててほしいと頼む。諏訪部は驚きながらも、最上が持ってきた50万に、サイレンサー付きのマカロフを用意することを了承した。
そして、最上に拳銃の打ち方を指南した。マガジンには3発入れておくが、銃は弾を使い切ってから捨てること、重要なの安全装置を外すことだと注意する。
翌日、土曜日の昼過ぎに日比谷公園の諏訪部に指定されたテントで、最上は拳銃を受け取った。そして新幹線で、叔父の清二が住んでいる小田原に向かった。叔父から車とシャベルを借り、最上は山中湖へと車を走らせた。
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山中湖周辺で無人の別荘を物色すると、2時間ほどかけてシャベルで穴を掘った。
そうして下準備を終えた日曜の夜、公衆電話から電話をかけ、最上は弓岡を呼び出した。
弓岡から凶器の包丁を受け取り、事件のいきさつを聞く。
弓岡は、とある競馬の情報会社 から情報を買うため、都筑和直に借金を申し入れたが断られ、逆上して包丁で刺していた。そして証拠隠滅のため、自分の借用書を探して抜き、見つけた現金を奪って逃げた。血のついたスリッパは多摩川の土手で血を洗い流した後、通りがかったコンビニのゴミ箱に捨てていた。
弓岡から全てを聞き出すと、最上は例の別荘へと誘い込み、弓岡を射殺しようとした。だが一発目は外れた。二発目は何とか命中した。三発目で弓岡にとどめを刺した最上は、あらかじめ掘っておいた穴に弓岡の遺体を埋めた。
携帯電話もSIMカードをばらし、共に埋める。だが夜の闇で薬莢を見つけるのに手間取ってしまい、一つは諦めるざるを得なかった。
最上「松倉を裁くためだからといって、この男を逃していいわけはない。罰せられるべき男なのだ。けれど・・・自分も今、この弓岡や松倉山と同じ罪人となった。この俺は誰に罰せられるのだろうか」
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刺殺事件の凶器が出てきた。多摩川緑地の川岸の草むらで、刃の折れた包丁が、競馬新聞に包まれ、コンビニ袋に入った状態で発見されたのだ。
包丁からは指紋が採取できなかったが、一方で包丁を包んでいた競馬新聞からは松倉の指紋が検出された。凶器という決定的な証拠が出たことにより、ついに松倉は都筑夫妻の強盗及び殺人容疑で逮捕された。
最上は弓岡の情報を無責任なタレコミ切り捨て、さらに弓岡から聞いた話を元に、動悸や犯行に至る経緯など事件のストーリーを完全に組み立てていく。
沖野は最上の手腕に感心しつつも、事件を見通しすぎていることに違和感を覚える。そして、凶器が出てきてなお、松倉が犯人とは思えないと主張する。そんな沖野に、最上は
最上「物証中の物証が出てきたのに立件を見送るという選択肢は俺にはない。それは俺にすれば、検事としての役目を放棄するようなものだ。検事でいる意味がない」
と言い放つのだった。
その後、粛々と事件の公判請求は進められていった。検察上層部にはすでに死刑求刑のコンセンサスも得た。松倉の断末魔を聞く日は近い、最上はその感慨を噛み締めていた。
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一方、最上に主任検事から外されてしまった沖野は、検察を辞める覚悟を固めていた。
検事を辞めた沖野は、まず松倉の国選弁護人である小田島弁護士を訪ねる。そして、松倉が無罪の可能性を主張し、事件の捜査には何か違法な工作がされた可能性があると明かす。
いくら検察を辞めたとはいえ、常務上知り得た情報を反対当事者にもらす沖野の行為は大問題だ。最初は沖野の申し出を突っぱねる小田島だったが、無罪を勝ち取れば弁護士として名声を上げることができるという沖野の説得に、次第に乗り気になり始める。
沖野は小田島と事件当日の松倉の足取りを追い始めるが、頼みの綱であった「銀龍」の店主から裁判での証言は拒まれてしまう。
沖野は最終手段として、自分が証人として法廷に出ることを提案する。そこへ、いくつもの無罪判決を勝ち取り、”白馬の騎士”の異名で知られるベテラン弁護士の白川が、 弁護団の一人に加わりたいと言ってきた。
白川の登場により、風向きは一気に変わり始める。雑誌記者の船木が蒲田の事件を「真犯人は別にいる」と記事にして世間に波紋を起こし、白川は「銀龍」の店主の説得にも成功した。
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結:明かされた事件の真相、検事とは、正義とは何か
8月の終わり、山中湖版の別荘地で実弾の薬莢が発見されたという記事が新聞に出た。その記事を目にした最上は、弓岡の遺体も見つかるのではないかと焦りを隠せない。
最上は船木や白川の裏で沖野が動いていることに気付いていた。だが沖野を排除せず、受けて立つ選択をする。
数日後、弓岡の銃殺体が発見された。同時に凶器のマカロフも見つかる。弓岡の死によって事件解決の糸がぷっつり切れてしまい、沖野は呆然とする。だが白川が出版記念講演会を開催するホテルで記者の水野と出会った沖野は、ついに最上と松倉との恐るべき接点に気づく。
事件の捜査を指導していたのは、根津の事件に関わっていた田名部管理官ではない。最上だ。
最上が弓岡殺しの犯人だとするならば、沖野は拳銃の入手先にも心当たりがあった。諏訪部だ。
橘はこれ以上この事件にもかかわらず、弁護士として仕事するよう説得するが、沖野はわかってしまった以上放ってはおけないと宣言する。
沖野は諏訪部に接触するが、諏訪部はやはり口を割ることはなかった。根津の事件で最上が北豊寮に入居していたかどうか調べてくれるよう、船木に頼む。船木は最上が北豊寮に入居していた裏を取り、さらに弓岡が行方不明になった5月中旬の週末、最上が小田原の叔父に車を借りたことまで突き止め、記事にした。
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検察による最上の取り調べが始まった。Nシステムに加え、箱根湯本駅周辺の防犯カメラには当時のデータが残っており、最上の足取りはかなり具体的に解明され、弓岡との接触が論理的に証明できるレベルまできていた。
そして松倉の公判は延期され、最上は逮捕された。最上は家族と石狩鍋を囲む約束をしていたが、それはかなわぬこととなった。
捜査の不正が解明され、松倉は釈放は時間の問題だ。小田島は「我々の勝利です」と息巻いていたが、沖野の心は晴れなかった。
拘置所に移された最上を、前川が訪ねてきた。前川は最上を前に、泣き崩れる。前川は弁護は任せてくれと最上に伝えた。
前川「俺は幸せ者だお前の力になれるなんてこんなに嬉しいことはないよ俺は弁護士になってよかった一生懸命勉強してきて本当によかった最上俺は今日からお前のために生きる」
前川のその言葉に、最上もこらえきれず、泣いた。
翌日、最上の家族もまた面会に訪れた。苦難を前にして、父親を支えようと励ます奈々子。自分は本当に恵まれていると最上はしみじみ感じていた。崩れかけていた家族は、今またその絆と温もりを取り戻し始めていた。
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最上が逮捕された翌日、東京地裁は弁護側の請求に従い松倉の釈放を決定した。松倉は釈放会見で、根津の事件の自供は警察に強要されたものだと、犯行を改めて否定した。
弁護士登録を済ませた沖野は、最上に面会するため、拘置所を訪ねた。
再会した沖野に、最上は
最上「君のような将来のある人間を検察から去らせてしまった。そのつもりはなかったが、結果的にそうさせてしまった。それだけが痛恨の極みだ。ほかには何も悔いることはない。俺はそれだけだ」
と告げる。
沖野は最上に弁護人をさせてほしいと申し出る。だが最上をこれを断った。
沖野は最上がずっと検事だったことに気づく。やってもいない罪で極刑を科す・・・およそ考えられるどんな手よりも苛烈で凄まじい制裁方法だ。冤罪がもたらす、血を吐くような惨苦を知り抜いている検事だからこそ、選んだ手だとも言える。
しかしまた新たに罪の償いから逃れる人間を作るわけにはいかなかった。だから、最上自身が大きな代償を払ったのだ。拘置所の中にいてなお、最上は正義を見つめ続けていた。
沖野もそれを見つめていたはずだった。だが沖野の正義は得意満面に自由を謳歌する松倉になり、アクリル板の向こうの最上になった。
自分は何をしたかったのか。沖野は泣きながら咆哮した。
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『検察側の罪人』解説&考察
タイトル「検察側の罪人」の意味は?
これはそのまま、最上検事を指しているのでしょうね。
検事でありながら、しかし検事であるがゆえ、時効で罪を逃れた松倉を、別の罪で極刑を科そうとした、最上の一連の行動を意味しているのではないかと思います。
ただ、個人的には検察を裏切った沖野も「罪人」と言えなくもないのでは、と思います。
自分が取り調べをする中で知った情報を松倉の弁護士にもらすという沖野の行為は、元検事としてあるまじき行為です。その意味では沖野もある種の罪を犯しているわけです。
松倉を別の罪で裁くことが正しいはずはありませんが、沖野の行為が完全な正義か?と言われれば疑問が残ります。
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23年前の事件で由季を殺した真犯人は?
23年前由季を殺した真犯人は、間違いなく松倉重生です。
松倉は釈放後の記者会見で、警察に自供を強要されたと根津の事件の犯行を改めて否定していましたが、これはウソです。
この松倉の主張は白河の差し金でもありますが、松倉は今回の冤罪に乗じ、23年前の事件すらも、自分が犯人ではないと世間に主張します。
最上のとった行動は、皮肉にも松倉が「23年前の犯人ではない」と主張するきっかけを作ってしまったのです。
結局最後は松倉が笑う結果となりました。
これは最上だけでなく、沖野にも責任がありますが・・・。
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弓岡殺害事件が最上の敗北に終わった理由
最上の弓岡殺害は、丹野の自殺を契機に、週末妻が韓国旅行で家を空けていたことから思いついた、突拍子もない犯行でした。
かなり突発的に行ったため、松倉犯人説が崩れ去れば、証拠は山のように出てきてしまいます。
- 地検近くの公衆電話から弓岡の携帯電話に連絡を取った。
- 小田原の叔父から車を借り、山中湖の別荘地へ移動。
- 弓岡から凶器の包丁を受け取り、事件のいきさつを聞く。
- 諏訪部から購入したマカロフで、弓岡を殺害。
- 薬莢の一つを現場に残してしまう。
Nシステムと防犯カメラの映像から、最上が弓岡に接触したことは証明されていきます。
一方で、拳銃の入手先は不明のままです。
諏訪部を取り調べたことのある沖野が気付きますが、「物は売っても人は売らない」をポリシーとする諏訪部の口を割らせることはできませんでした。
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丹野の死は本当に自殺?
土木会社による高島グループの政治団体への闇献金問題で、特捜からマークされていた丹野。
丹野の死は本当に自殺だったのか、それとも義父である高島に殺されたのか?
答えは自殺です。
収支報告書不記載処理の決定に関与したとして、特捜が丹野の逮捕許諾請求を行ったという記事が新聞に出たその日に、丹野は自殺しました。
国会議員には不逮捕特権があり、原則として国会の会期中逮捕されることはありません。
が、特捜は逮捕許諾を請求してでも、丹野を逮捕しようと動いていました。全ては本丸の高島にたどり着くためです。
丹野も当然特捜のこの動きは察知しており、一方で自らの政治生命を、さらには自分の命を賭しても、高島を守ろうとしていました。
丹野の自殺で闇献金受け渡しの真相を知る重要人物がいなくなり、結果特捜は高島を訴追する足がかりを失います。
最上は高島が丹野を盾にしようとしていると考えていましたが、丹野自身は
丹野「別に俺は今の立場を強いられているわけじゃない」
と言っていたように、義父に心酔し、高島を総理にしたいと願っていた丹野が、文字通り自分を盾に高島を守ったのでしょう。
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『検察側の罪人』感想
後半は本当に読んでいて辛かったです。
正直沖野は橘沙穂がいなければ沖野は最上の犯行に気付くことはできなかったでしょう。
最初の諏訪部の聴取での麻雀問題に始まり、最上の犯行に気付いたのも彼女です。
凶器の入手ルートに気付いたのも橘沙穂。
後半非常にうっとうしい女と化した彼女が、沖野にちょいちょい重要なヒントを与えてくれるのがどうにも・・・。
ぶっちゃけ沖野は何もしていません。
事件に重要なポイントに気付くのは橘沙穂で、証言を取ろうと事件を動かしたのは白川、最上が北豊寮に住んでいた裏を取り、記事を書いて告発したのは船木です。
確かに沖野が検察を辞め、小田島弁護士に接触しなければ松倉の冤罪は暴かれることはなかったでしょうが、それにしても沖野は圧倒的に周りの人間に助けられ、かなり恵まれています。
一方で最上にはありとあらゆる意味で運も人も味方しません。
それは犯罪を犯した最上もまた裁かれるべきだということなのでしょうが・・・。
最上のそもそもの誤りは、沖野に目をかけ、松倉の取り調べを担当させてしまったことに尽きます。
だけど、それは「後悔していない」という最上・・・。
最上の正義が突き刺さるラストでした。